アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

江戸川乱歩編「世界短編傑作集2」

江戸川乱歩が編纂(へんさん)のアンソロジー「世界短編傑作集」全5巻の軽い感想など。今回は第2巻について。

(以下、江戸川乱歩編「世界短編傑作集2」収録短編の核心トリックに触れた「ネタばれ」です。「世界短編傑作集2」を未読な方は、これから本作を読む楽しみがなくなりますので、ご注意下さい。)

第2巻はルブランのリュパン・シリーズ「赤い絹の肩かけ」から始まる。これは短編リュパンのなかでも、かなり上位に位置する好編だと思う。リュパンがガニマール警部を誘い出す「意外な発端」のオープニング、リュパンが殺人事件の遺留品の片方を警察に渡して、ガニマールをまんまと利用する本編の展開、そして最後にガニマールから拳銃を突き付けられ退路を絶たれるも、リュパンがハッタリをかまして軽く逃げおおせてしまう痛快なラストまで、もう全ての記述に無駄がない。まさしく「世界短編傑作」だ!未読な方は是非。

ポースト「ズームドルフ事件」は、近代文学たる探偵推理の理想型のような作品である。密室殺人で、外部から密閉された部屋で男が銃で射殺されるわけだが、さんざん宗教的呪いや神による罰など前近代の呪術的なものを振りまわして作者が読み手を翻弄する。しかし、最後はしっかりとした科学的(正確には化学的)で合理的な説明記述にて密室射殺事件の謎を見事解決に導く。

「近代文学たる探偵推理小説の掟」として、例えば密室殺人の場合、遠方外部からの超能力とか、呪術による呪い殺しとか、人間には全く理解できない人智の到底及ばない神の力とか、そのような前近代的なもの持って来て話を終わらせるのは明らかにペテンで許されない。必ず合理的で現実にありうる説明が必要である。そうでないと事件を「解決」したことにはならない。それで、この「ズームドルフ事件」は極めて合理的な、誰もが「なるほど」と納得できる密室殺人の「解決」を最後に作者が周到に用意している。だから本作は「近代文学たる探偵推理のお手本」といえる推理小説の基本中の基本な短編といえる。

フリーマン「オスカー・ブロズキー事件」、これは色々なアンソロジーによく収録されている定番な短編である。倒叙もので、最初に書き手が犯行の過程を丁寧に書いて、読み手もあらかじめ犯人がわかっていて、それから探偵なり刑事が犯行現場や容疑者の何に気づいて、何に引っかかり、どのようにして犯人を追いつめていくのかが読み所の推理小説である。例えばテレビドラマ「刑事コロンボ」が、まさに倒叙形式に当たる。本作は第1部で「犯罪の過程」、第2部で「推理の過程」の全二部構成になっていて、探偵役の主人公(ソーンダイク博士)が、いわゆる「魔法の箱」を常に携帯しており、その中に小型の顕微鏡やら試験管やらが入っていて、事件現場で即座に遺留品の分析をやって最終的に犯人にたどり着く。緻密(ちみつ)な科学推理小説である。

ホワイトチャーチ「ギルバート・マレル卿の絵」と、クロフツ「急行列車の謎」は、共にいわゆる「鉄道もの」だ。昔は、まだ自動車や飛行機がなくて公共の移動機関として船か鉄道が主で、特に鉄道に対する人々の期待や関心が高かった。それで探偵推理で「鉄道もの」といえば、列車そのものが消える(列車消失)か、動いている列車の密室状態の客室で殺人が起こるパターンが多い。前者の「列車消失」が「ギルバート・マレル卿の絵」で、後者の「列車客室での密室殺人」は「急行列車の謎」にそれぞれ該当している。

全体的な読後の感想として、この第2巻は「機械トリック」が多い。電気やら火薬やらの機械的な仕掛けを施して遠隔から人を殺そうとするものだ。結局、機械トリックというのは、書く人にとって便利であると思う。話の前半で、いくら犯罪に関する不可能性=「容疑者全員にことごとくアリバイあり」の謎の大風呂敷を広げておいても、科学的な機械トリックを最後に持ってくれば必ず合理的に難なく無難に事件を解決できるから。犯罪に関する謎を無理なく回収して見事に着地点に持っていける。しかし、読む方としては機械トリックというのは無味乾燥で面白くない。

例えば、本巻に収録のベントリー「好打」。ゴルフ場でのグリーン上での遠隔殺人である。ネタばれで申し訳ないが結局、ゴルフクラブに事前に細工をしてクラブのヘッド部分に爆薬を仕掛けておいて、被害者が球を打って「好打」のナイスショットの瞬間に爆発して爆死。私としては、「あーそうですか」のような(苦笑)。その他にも、本巻収録作品には機械トリック多い。ブラマ「ブルックベンド荘の悲劇」も、コール「窓のふくろう」も電気や鉄砲を使った機械トリックだ。短編というのは字数が短く制限されているので執筆するのが難しいのだが、さんざん謎の風呂敷を広げておいて、最後に機械トリックに収斂(しゅうれん)させて終わらせるのは安易で無味乾燥で私は読んで正直、辛(つら)いのである。

やはり「機械トリック+アルファ」で、機械トリック以外にも、さらなる別の要素を加える創作の工夫がないと。そのようなことを何となく感じさせる江戸川乱歩編「世界短編傑作集」の第2巻である。