アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

江戸川乱歩 礼賛(5)「目羅博士の不思議な犯罪」

江戸川乱歩の「目羅博士の不思議な犯罪」(1931年)は題名が素晴らしい。タイトルだけで言えば、乱歩の作品では「ぺてん師と空気男」(1959年)と双璧をなす名タイトルであるように思う。

乱歩作品の中で、相当に秀逸と思える印象深い名タイトル「目羅博士の不思議な犯罪」である。題名最初の「目羅博士の」での博士の名「目羅」(「めら」もしくは「もくら」と読む)の固有名詞の響きがまず良い。それから「不思議な犯罪」と続く。タイトル結語の「犯罪」を修飾する「不思議な」の形容詞が小説中身の内容を含意し的確にタイトル反映して、かつ最初に本作を手に取る未読の読者に与える語感の響きの第一印象の付与効果、ともに絶妙である。非常によく練(ね)られ考えられたタイトルだ。

小説の内容は「月光の魔力」と「模倣の恐怖」である。内容も、どこか神秘的で幻想的である。この作品には元ネタがある。エーヴェルス「蜘蛛」(1908年)だ。以前に「目羅博士」を読んで後にだいぶ経ってから、立風書房「新青年傑作選・翻訳編」(1970年)にてエーヴェルス「蜘蛛」を読んで「乱歩の目羅博士は、この作品の改作」であることに私は遅まきながら気づいた。

江戸川乱歩もそうだが、横溝正史にしてもこの人たちは自分で探偵小説を創作するだけでなく、海外のものを日頃からよく読んで研究している。以前に横溝のインタビューでカーの「帽子収集狂事件」(1933年)の話題が出た際に、横溝が「帽子収集狂?あーマッド・ハッターね」と言ったとき、「やはり横溝さん、海外の作品が日本に翻訳紹介される以前に、すでに原書で読んでいるのだな」と思った。江戸川乱歩の「類別トリック集成」(1954年)にしても、古今東西の探偵小説を幅広く読んで収集研究しミステリー全般に造詣が深くなくてはできず、あれは骨の折れる大変な仕事だと思う。

そうした研究熱心な日本の探偵小説界を明るく妖(あや)しく照らす二つの巨星・横溝正史と江戸川乱歩、偉大なる「大横溝」(おお・よこみぞ)と「大乱歩」(だい・らんぽ)に私は、ひたすら脱帽だ。