アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(106)藤田宏 長岡亮介「大学への数学」

大学受験数学で「大学への数学」と言えば、昔は研文書院の黒いカバー表紙の参考書「大学への数学」と、東京出版から毎月出ている月刊誌「大学への数学」とが同タイトルでまぎらわしくあった。「大学への数学」ら「大学への××」シリーズの黒カバー表紙の本格派な大学受験参考書を出していた研文書院は、後に廃業し今日では存在していない。そのため研文書院の「大学への数学」シリーズは今や絶版・品切れとなっている。

このことから研文書院の「大学への数学」シリーズの硬派な黒カバーの参考書は、今では価格高騰して古書であるにもかかわらず、いずれも定価より高くなっているようである。1冊だけなら、まだ少しは納得できる古書の価格設定になっているものもあるが、「数学Ⅰから微分積分、確率統計まで」のシリーズ全冊を揃(そろ)えたコンプリートのセット売り古書となると、かなりの強気な高額で古書店での流通販売もしくはネット上で個人取り引きされており、驚くほどである。

研文書院は古くからあった大学受験参考書を出していた老舗(しにせ)の出版社で、私が高校生だった1980年代や後に私が大学進学した1990年代には街の書店の参考書コーナーに普通にあって、良心価格の納得できる定価で購入できていた。まさか、あの硬派な黒表紙カバーの「大学への××」を出していた研文書院が後に廃業して、研文書院刊の参考書が一斉に絶版・品切れとなり、ここまで一気に価格高騰するとは思ってもみなかったな。研文書院といえば、私は安藤達朗「大学への日本史」(1973年)を昔から所有していて折に触れ大切に読み返していた。安藤「大学への日本史」が相当な名著で、あの精密で周到な、ある意味、大学受験日本史のレベルを軽く越えた詳細記述に感心して、そこから同研文書院の大久間慶四郎「大学への世界史の要点」(1976年)も買い求め所有していたし、同社の「大学への数学」の各書も、それとなく購入していた。必ずしもしっかり問題を解いて勉強していない、いい加減な「積ん読」であったけれど(笑)。今にして思えば、研文書院の「大学への数学」シリーズを同社が廃業する前に定価購入して集めておけば良かったとは思う。

さて私は大学は理系学部に進学しなかったので、私が知る範囲は大学受験のための高校レベルの数学までだが、大学進学後も、また学校を卒業した後でも遊びで大学入試数学の過去問を解いたりしていた。

独学で大学受験数学を学んできて、このレベルまでの数学は、もともと(1)代数的アプローチ(変数xやyを用いた方程式で、グラフ上の点が満たす式)と(2)幾何学的アプローチ(x軸とy軸の上で図示されるグラフで、方程式を満たす点の集合図)の2つがあって、これら2つのアプローチ形式を常に意識できて、かつ「代数的アプローチ(方程式)から幾何学的アプローチ(グラフ)へ」、ないしは「幾何学的アプローチ(グラフ)から代数的アプローチ(方程式)へ」の移行がどれだけスムーズに自在に出来るかが、いわゆる「数学の基本をわかっている」とか「数学のセンスがある」ということになるのだと思う。

私が高校生の時、例えば二次関数の方程式があれば手癖(てくせ)で即座に平方完成や因数分解をしていた。だが後によくよく考えて、あれはなぜかといえば、方程式の代数的アプローチからグラフの幾何学的アプローチに移行するために必須の手続きだからである。一次関数は直線だから変数xとyの任意の2点がわかれば、すぐにグラフがかける。2点を直線で結んで延長させればよいから。だが二次関数は放物線なので変数xとyの任意の2点をわかっていてもグラフはかけない。頂点がわからないと放物線の二次関数グラフはかけない。そこで平方完成してy=(x−p)2+qで、谷型カップか山型キャップの二次関数グラフを平行・上下移動したグラフとしてかくことができる。もしくは因数分解すれば、放物線とx軸との2点の交わり(α,0)(β,0)がわかるから、その2つの解の中間点が二次関数の頂点のx値とわかるので、そこからグラフをかくことができる。

それでベクトルも指数・対数も三角関数も数列も、基本は代数的アプローチの方程式で考えるが、同時に幾何学的アプローチのグラフにも必ず移行できる。そういった「方程式→グラフ」「グラフ→方程式」を常にイメージして高校数学は勉強すると上達が早いと思える。

私が、高校数学の中で昔から特に好きな分野は微分・積分である。微分・積分は代数的アプローチの方程式と幾何学的アプローチのグラフとの双方向移行の究極を狙(ねら)っている数学分野だから、特に好きなのである。微分の概念を使えば、二次関数以上の高次の曲線グラフ(幾何学的)でも、その曲線のカーブを異常にクローズアップしてどこまでも微細に見て、その曲線はやがて直線の一次関数(導関数)の方程式(代数的)になるし、さらには曲線の線は点の集積だから1つの点(極限値)に収束していく。逆に積分の概念を使えば、二次関数以上の高次の曲線グラフ(幾何学的)でも、その曲線のカーブをある程度のロングショットであくまでも俯瞰(ふかん)で見て、直線でないため厳密に面積計算できない、その曲線部分に囲まれた範囲の総和(積)を方程式(代数的)でかくことができるのである。