アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(100)二戸宏羲「現代文テーマ別 頻出課題文集」

大学入試の現代文は常に初見の問題文なので、受験生は何から出典の評論文と小説が出題されるか予測できず毎回、試験のその場で考えて現代文の問題を解くしかない。この意味で現代文は事前の知識よりも、その時々での読解の思考が試される科目といえる。

結果ひどい話が、評論と小説ともに毎回問題となる出典文章が違う現代文には試験前にできる対策はない、現代文の試験対策として事前にやれるのはせいぜい漢字や慣用句の語句知識習得だけといったことになる。

だが、やり方はある。毎回出題出典が違う入試現代文でも前もってやれる対策はある。それは評論文読解に際して、主要テーマや評論のキーワードの背景知識と基本知識をあらかじめ知って自分の中にインプットしておくことだ。そうすれば初見の評論であっても、テーマとキーワードに応じた評論要旨が事前に予測でき、既知の事柄を踏まえながら問題文に当たれて、初読で早く深く内容理解して読める。

例えば、近代化論における「近代(化)」「脱近代(ポストモダン)」、貨幣論におけるマルクス主義の資本主義批判と、現代思想の記号論を背景にした価値生成理論の概要など、それぞれ入試現代文で頻出テーマの背景知識、また「イデオロギー」「ジェンダー」「文化多元主義」らの評論文でのキーワードの意味内容を事前に知って評論文を読めば、初読で難解な抽象的文章であっても、そこそこ対応できる。むしろそれら主要テーマや評論のキーワードの背景知識と基本概念を全く知らず、いきなり入試現代文の評論問題を読んだら何を書いているのかワケが分からないことになると思う。

以上のことは入試の現代文読解以外での、一般の読書論のアドバイスにても同様で、「それだけで終わらせずに、共通テーマの論文・書籍を必ず連続して複数読め。そうすればテーマの全体像や考察の背景、繰り返し使われている概念用語の内容が如実に分かって、より深く理解できる」「世間一般に有名な代表作だけでなく、その作家の個人全集を最初から最後まで時系列で全巻読め。そうすれば書き手の考え方から人となりや嗜好(しこう)、癖(くせ)まで分かって、作品をより深く理解して読めるようになる」などとよく言われる。これらは主要テーマや評論のキーワードの基礎的な背景知識をあらかじめ知っていれば、入試現代文の評論問題にて初読で難解な文章であってもそこそこ対応できる、の原理に通じる事柄であると思う。

駿台文庫、二戸宏羲(にと・こうぎ)「現代文テーマ別・頻出課題文集」(2010年)は、入試現代文の評論問題に挑(いど)むに当たり、それら主要テーマや評論のキーワードの基礎的な背景知識を事前にインプットしておく参考書として最適である。かなりの冊数の幅広い各テーマの評論文の読み所を抜粋し集中して載せているので、大した読書経験がない受験生でも、これ一冊を読むだけで昨今の入試現代文の評論テーマの定番の背景知識と頻出概念用語の概要ならびに傾向のトレンドを手っ取り早く知ることができるのである。

本書は「××を巡(めぐ)って」の見出し別に全16テーマに分けられており、テーマ内容は「第Ⅰ章・今日的テーマ」として近代化、科学技術、情報化社会、環境と生態系など。「第Ⅱ章・普遍的テーマ」として文化と文明、日本と日本人、時間、人間のこころ、芸術、文学らの各論典型の代表論説が掲載されて全部で80の評論文抜粋である。本参考書1冊を読むだけで、すでに80冊の書籍を読み重ねた程の感触が得られて非常に効率的である。

構成は見開き2ページの完結で、右ページには(おそらくは)大学入試過去問の評論問題文の抜粋(ただし設問はなし)、左ページにはテーマ(「切り口」「モチーフ」)と要旨のまとめ(「考察」)と重要語句の解説(「語彙」)、漢字の確認(「漢字の書き取り」)、読解をより深めるための問いかけ(「考えてみよう」)がある。

二戸宏羲「現代文テーマ別・頻出課題文集」のタイトル頭には、「入試までに必ず読んでおきたい」の文言が付いている。まさしく本書は「入試までに必ず読んでおきたい」のであって、本参考書を読んで主要テーマや評論キーワードの背景と基本知識の概要ならびに傾向を事前に知った上で、入試現代文の評論問題に臨むのが最良(ベスト)である。