アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(41)竹国友康「現代文と格闘する」

河合塾の河合出版から出ている竹国友康「現代文と格闘する」(2006年)は、安易な解法ルールや公式の提示、選択肢の見分け方などではなく、問題の現代文の文章そのものを正攻法で逃げることなく本質的に読解する、まさにタイトル通り「現代文と格闘する」本格派な参考書の印象だったので従前の周りの書評の高評価もあって、かなり期待して読んでみた。

しかし、内容的に「そこまで本格派で本当にひるむことなく正面から正々堂々と現代文と格闘しているか!?」といった物足りなさは正直、残った。少なくとも私の場合。「現代文と格闘する」というくらいだから、それこそ詳細な深い問題文の解読分析が幾重にもしつこく重層的かつ幅広く繰り広げられていて、一読した程度では精密すぎて到底説明内容を理解できず、何度も繰り返し読んでやっと理解に達するような文字通りゴリゴリの現代文との「格闘」を期待して鍛えてもらおうと思って臨んだのに、期待とは少し違った。

確かに入試現代文を解くマニュアルやテクニックのインスタントな公式ルール集の提示ではなく、きちんと問題文の読み解き解説をやってはいるけれど、その方法が「まず形式段落ごとに内容を要約して、次に意味段落にわけて、最後に文章全体の論旨をまとめる」という割合オーソドックスな方法論のみである。つまりは、主な読解の解説が「読みつなぎ方」と称する要約作業に終始する。その「読みつなぎ方」の中身とは形式段落ごとの要約たる「段落のまとめ」をその都度やり、段落どうしの関係を押さえ、最後に「全体の要旨」を載せて一通りの解説が終わるパターンだ。

「段落のまとめ」と「全体の要旨」からなる「読みつなぎ方」以外にも、例えば、抽象・具体の言い換えで同値の言葉のズレ方を一貫して押さえる、対立関係を抜き出し図式化して説明する、理由説明の内容の深まり記述を掘り下げて追跡する、この比喩では何を共通項の媒介にして成立しているか構造を見切るなど、その他、様々な本質的読解の方法があるはずである。もっと幅広くて深い読みの分析解釈ができるのではないか。全体を幅広く見渡して、しかもより精密に細部にまで迫った大胆で細かな読みの解説を行う余地があるのではないか。「現代文と格闘する」の問題演習をやって解説を読んで少なくとも私はそう思った。

あと気になったのは、「現代文と格闘する」を共同執筆の河合塾の講師の方々は日頃から現代思想の書物を読んだり思想の用語解説をしたりすることがよほど好きなのか、現代文の評論に出てくる背景知識の解説をやりすぎである。本書の第一章には「ことばをイメージする」の単元があって、「現象と本質」や「普遍と特殊」や「脱近代(ポストモダン)」など評論に出てくる術語をよく説明されている。その上さらに問題演習の解説でも先の「段落のまとめ」と「全体の要旨」の「読みつなぎ方」に加えて、毎回「語句の説明」を多くの紙面を割(さ)いてしつこくやる。おまけに各問題の解説の末尾には「知の扉」というコラム記事まであって、「都市論の現在」や「言語論をめぐって」のような、これまた評論テーマの背景知識の説明を非常にしつこく何度も繰り返しやる(笑)。

もちろん、大学入試の現代文の評論問題を解く際には、そういった評論によく出てくる独自の言い回しや抽象的な術語、議論のテーマについての背景知識の理解は最低限必要だとは思うけれど、どう考えてもやり過ぎだ。とりあえず背景知識を受験生に注入(インプット)して、「主にその知識に頼って現代文を解かせよう」という安易な印象すら受ける。

やはり現代文は元々「知識」があるか否か、つまりは「知識があるから解ける」ではなくて、知識よりはむしろ「思考」の訓練をやらせるのが現代文という教科の本領であり、それこそが文字通り「現代文と格闘する」ということであって普段、文章を読む際には皆が無意識にであれ必ずやっている、要約と背景知識以外の様々な読み解きの思考が本当はあるわけで。そういったことを受験勉強で教えてもらわないと受験生自身が後々に苦労して困る。仮に大学に受かったとしても、大学生は日々多くの学術書や研究論文を読まなければならないので、その際に要約と背景知識のみで本質的な現代文の読解力がなかったら学生本人が困る。

結局、私の読後の感想としては「読みつなぎ方」と称する要約・要旨のまとめと「語句の説明」と「知の扉」の背景知識の評論用語とテーマ解説が主で正直、物足りない。もっとその他、様々な入試現代文の読解アプローチが本当はあるはずなのに「要約と要旨のまとめ」と「用語とテーマの背景知識の解説」だけで主に処理されて、読んでいてごまかされている思いが一貫して拭(ぬぐ)えず、「現代文と格闘する」という本格的な「格闘」レベルにまで達しているとは私には思えなかった。