アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(102)高畠金蔵「奇跡を起す両国式合格作戦」

現在は閉校してもうないが、以前に医歯薬受験対策専門の両国予備校というのがあった。そこの創業者であり理事長であった高畠金蔵はなかなかクセのある人で(笑)、レギュラーのラジオ番組を持って精力的に出演していたり、1980年代から90年代にかけての全盛期には東京だけでなく、大阪にも支店校舎を出して全国ネットのテレビCMを流したりもしていた。

医歯薬専門の両国予備校は通学はなく全寮制で、必ず寮に入寮して予備校の厳格な生活指導監視下にて24時間、受験勉強に取り組む、かなりのスパルタであったという。入寮の際には理事長みずから長時間の講話の個人面談をやって、医歯薬科大学合格のために勉学に真剣に打ち込む当人の覚悟の程を誓わせたり、恋愛禁止の校則、毎日の「自宅学習報告書」の記入提出や毎朝テストなど随時やって「四六時中、勉強漬け」の相当に厳しい大学受験指導をやっていたらしい。

私は九州出身なのだが、当時のスパルタな両国予備校のような厳しい受験指導をやる予備校で、九州・山口地方に北九州予備校というのがあった。北九州予備校は現在も九州地区を中心に各校ある。校舎に「努力は実る」というデカイ文字看板があって、私は北九州予備校(通称・北予備)に通ったことはないのだが、北九州予備校も、かの両国予備校に負けず劣らず昔はかなり厳しかったらしい。予備校生の授業出席率はほぼ100パーセント(つまりはサボりは絶対に許されない)で昔、北九州の小倉の街で夕方にあまりに多くの若い学生らしき人達が一方向にゾロゾロ大移動していくのに遭遇し、驚いたことがあった。どうやら、あれは夜間に強制の絶対出席で予備校生を自習室に入れて勉強させる北予備名物の毎日行事であったらしい。北九州予備校も両国予備校と同様、入寮の学生が多く予備校の監督指導下にて24時間、受験勉強に真剣に取り組むというかなりのスパルタであったという噂を聞く。

医歯薬専門予備校や普通の予備校内での医歯薬系進学クラスの設置は現在では一般的であるけれども、まだ昔は医歯薬受験対策の専門予備校は珍しかった。ここに両国予備校の発展、躍進の理由があった。いつの時代にも代々医師の家系で必ず医者にならなければならない者、実家が開業医で子弟に病院を継がせたい親の意向で絶対に医学部進学を果たさないといけない受験生は一定数存在する。そして、そうした受験生の医師家庭は、往々にして経済的に豊かで「我が子を医学部合格させるためなら学費が高額であっても構わない」で、医学系予備校に多額の授業料を払込みできるものである。そこに業界先駆として昔の時代から早くも医歯薬受験専門を看板に創業した両国予備校の勝算は確かにあった。

1980年代から90年代にかけての全盛期に両国予備校は東京と大阪に校舎を持ち、全国ネットのテレビCMを流したりしていた。その両国予備校のCMに出演していたのは俳優の山本陽子だった。山本陽子が派手な舞台メイクで「私も頑張っています」とか「Do・Your・Best!」などと毎度テレビCMの中で言っていたことに、山本自身は大学受験と縁がなく、年齢的にも受験生世代とかけ離れており、受験生にファン層がいるとも思えないことから、「結局は理事長が山本の熱烈ファンで高畠理事長の個人的趣味での抜擢か!?」などと当時より(そして、たまに今でも)山本陽子が両国予備校CMに出演の件は不思議がられていた。

しかし、あれは山本陽子が昔、同時代の80年代に松本清張原作の「黒革の手帖」(1978年)のテレビドラマ版(1982年)で主演を演じていたからに他ならない。松本清張「黒革の手帖」は、地味な女性行員の原口元子が銀行顧客の裏金口座の金を横領し、それを元手に銀座のクラブのママとなり、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する夜の街・銀座で、「黒革の手帖」の秘密メモを武器にホステスや高級クラブ同業者、銀座の上客の男たちと張り合い、彼らを出し抜いて銀座一の高級店「クラブ・カルネ」のオーナーママにまで登り詰めるピカレスク・サスペンス(悪漢小説)である。主人公の銀座ママの原口元子は、脱税を重ねて蓄財している常連客、産婦人科医の楢林と、裏口入学を手引し儲けて銀座で豪遊している医科系大学専門予備校経営の橋田の裏の犯罪を知って、彼らをゆすり取引して夜の銀座でさらにのし上がっていくわけである。そうした「黒革の手帖」ドラマ劇中にて原口元子を演じた山本陽子が、これまた劇中での因縁ある宿敵、医科系大学専門予備校の橋田を想像させる、医歯薬専門の両国予備校のCMに、いかにもな銀座ホステス風の派手な舞台メイクであえて出演するという、あれは松本清張「黒革の手帖」のテレビドラマを背景にした壮大な伏線回収でパロディの傑作冗談CMであるのだ(笑)。

だから、私は当時から両国予備校の山本陽子のテレビCMを視聴するたび毎回、爆笑していた。