アメジローのつれづれ(集成)

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大学受験参考書を読む(84)野島博之「謎とき日本近現代史」

駿台予備学校から始まり、後に東進ハイスクールや学研プライムゼミらで日本史の大学受験指導を重ねられてきたベテラン予備校講師の野島博之に関しては、何よりも駿台予備学校在籍時の直属の上司が駿台日本史科主任の安藤達朗であり、私は昔から駿台予備校の安藤達朗が好きで安藤の「大学への日本史」(1973年)を日々愛読していたので、安藤が逝去後に野島が安藤達朗について折に触れ語る話が大変に興味深く、野島博之の文章を一時期、探してよく読んでいた。

また野島博之は東京大学文学部の日本史学科出身であり、安藤達朗も東京大学出身であったが、この人の妻が同じく東京大学出身の歴史学者で現東大教授の加藤陽子であり、加藤の日本近現代史の研究も私は好きで加藤の著作を前から好んでよく読んでいたのである。日清戦争から日露戦争、日本が参戦の第一次世界大戦の東アジア戦線から十五年戦争まで、近代日本の戦争について概説的に書かせれば近年、加藤陽子ほど手馴れて上手に書ける人は他にいないと私には思えるほどだ。

特に日本近現代史専攻の加藤陽子に関しては近年、自民党保守政権であり、前の安倍内閣よりその保守的な国家意識と歴史観、さらには首相官邸主導の行政の強権発動政治までそのまま継承した菅内閣による「日本学術会議会員の任命拒否問題」(2020年)があった。この任命拒否問題の詳しい内容を説明すると長くなるのでここでは述べないが、菅内閣下で初めて特定の6人の会員候補に任命拒否が出され、日本学術会議会員から外されてしまう。その任命拒否の6人の中に歴史学者の加藤陽子が入っていた。このことを受けて私は、政府の任命拒否は明らかに不当で間違っていると強く思うと同時に、日本学術会議会員の任命拒否者リストに入れられ学術会議会員から強制的に外された加藤陽子が、とても気の毒に思えて彼女に同情の思いもあった。

野島には一度もお会いしたことはないが、氏に近い安藤達朗と加藤陽子が好きな私は、当の野島博之が知らない所で(笑)、相当な親近の情の好感を勝手に一方的に抱いていたのである。

野島博之は予備校講師として日本史の全時代を教えていて大学受験参考書の著作が多くあるが、野島は元は日本近現代史専攻の人であって、ゆえに近現代史についての野島の書籍が特に読んで面白いと思える。例えば講談社現代新書の野島博之「謎とき日本近現代史」(1998年)などは時々読み返してみると、なかなか味わい深い。本書は日本近現代史にて9つの「なぜ」の「謎」の疑問を提示し、それらに著書の野島博之が順次答えていくというものである。いずれも大学受験日本史の論述対策のネタ本のような内容である。本書にて扱われる日本近現代史の9つの「謎」とは以下のようなものであった。

☆日本はなぜ植民地にならなかったか。☆武士はなぜみずからの特権を放棄したか。☆明治憲法下の内閣はなぜ短命だったか。☆戦前の政党はなぜ急成長し転落したか。☆日本はなぜワシントン体制をうけいれたか。☆井上財政はなぜ「失敗」したか。☆関東軍はなぜ暴走したか。☆天皇はなぜ戦犯にならなかったか。☆高度経済成長はなぜ持続したか。

これら野島博之がいう所の「正しい歴史観をみがくための9つのなぜ」の内の7つ目の「謎」である「(満州事変ら、大陸北方の前線にいて内地の陸軍参謀本部と天皇・内閣のコントロールが効かず)関東軍はなぜ暴走したか」などは、大学入試の二次試験の論述問題で一橋大学か名古屋大学あたりでいかにも出題されそうな問いである。一橋大学も名古屋大学も、昔から二次試験の日本史論述で近現代史の問題を好んで出す大学であった。