アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(47)山川出版社「関関同立入試対策用日本史問題集」 教学社「早稲田の日本史」

大学進学の命運がかかっている人生帰路の現役大学受験生とは違って、非常に申し訳ないが、私のように半分は遊びで大学入試の日本史問題を解く場合、あまりに簡単すぎるものは面白くないわけで。そこそこ骨のある手強い難易度が高い日本史過去問を、どうしても解きたくなる。その点でいうと難関私立の入試過去問がそこそこ難しくて良いと思う。センター試験日本史などとは違い、適度に難化されている具合が。

例えば、関西の私大なら立命館大学か同志社大学あたりである。立命館は教科書や参考書には載っていない、初見史料などよく出していて、作問にオリジナルな工夫が見られる。同志社大学はキリスト教系の大学だから、世界史は難しそうだけれど、入試の日本史など力を抜いて易しい問題なのかと思いきや案外、本格派な深く突っ込んだ細かで詳しい日本史の入試問題を出す。同校の卒業生である「徳富蘇峰」を答えさせる設問など、同志社の日本史過去問を見ているとよく出ている。

そういえば、立命館大学でも以前、近代史の自由民権運動で「讒謗律(ざんぼうりつ)」を書かせる問題が出たことあった。記号選択ではなく「讒謗律」を直接、漢字で書かせる難問である。あの年度の立命館入試の受験生で「讒謗律」など、間違いなく漢字で書けた人いるのか!?「薔薇(ばら)」や「憂鬱(ゆううつ)」同様、咄嗟(とっさ)に動揺なく書くにしては細かくて難しい漢字である。私は何も見ずに「讒謗律」の漢字を間違いなくスラスラ書ける自信はない(笑)。

また論述ありの国立の京都大学の日本史二次試験とは違い、立命館と同志社の日本史過去問は、文化史などの細かな単独知識を問う雑問が多い。京都大学の二次は、テーマ史的なものの時代変遷や、歴史の重要な事柄を問う問題(例えば、日明貿易の始まりと繁栄と衰退までの全過程とか、戦後の日本国憲法の制定過程の一連の流れなど)をそのまま論述で書かせたりする割合、有機的で筋道立てた受験生の歴史学的思考を確かめる正統で正攻法な日本史の入試問題を出す。かたや関西私立では傍流で細かな単発の歴史知識を尋ねる、悪く言えば「雑学歴史クイズ」のような設問が多い。例えば古代史での四神相応=「青龍・朱雀・白虎・玄武」にて、北神や西神は何に当たるかなど立命館も同志社もほぼ毎年、定番で聞いてくる。

加えて、京都にある関西私大の大学なので「京都の歴史」に特化した出題が、他地域の大学よりも多いような気がする。そして立命館大学も同志社大学も日本史の入試問題はそこそこ、それなりに難しい。あの難度の問題で完答で満点をとれる受験生は、そこまでいないのではないか。

関東の私大なら早稲田、慶應義塾、上智大学あたりの日本史入試が難しくて面白い。ただ早稲田大学の日本史は一般に「難しい 」と言われるが、学部により明らかに難易度の差があることも確かである。例えば早稲田の政経学部の日本史は難問もあって問題そのものが難しい。おそらくは合格ラインのボーダーは7割から6割くらいだと思われる。早稲田の政経の日本史で満点の完答はほとんどなく、8割得点できれば余裕で合格圏内、7割でも合格できる。6割の得点だと合格はボーダーラインの微妙で運次第といったところか。

他方、同じ早稲田でも社会学部の日本史入試問題は相当に易化した得点しやすい日本史で、早稲田志望の受験生なら皆が当たり前にできるレベルなので、8割9割は当たり前。安易なミスで、皆が難なくできる問題をいくつか落として失点すると確実に不合格で落ちる。早稲田の社会学部は、入試問題自体が易しいがゆえに他ライバルの受験生の皆が高得点になってしまい、合格ラインのボーダーが相対的に高くなり(最低でも9割得点とか)、基本問題を凡ミスの勘違いやド忘れで絶対に失点してはいけないプレッシャーがあって問題の難易度は低いのに、結果として逆に「非常に厳しい難しい大学入試」になっている。

早稲田大学以外でも、慶応大学や上智大学の難関私大の日本史入試テストは難しいが、それら大学で出される難問(時に受験生がなかなか正解を出せない明らかに出題者側の作問自体に難がある奇問)には、幾つかのパターンがある。難関私大の日本史過去問を連続して解いてると、出題大学側にある難問・奇問作成のパターンはそれとなく見えてくる。

そもそも入試問題の作成にあたり、どんな大学でも受験生の完答の満点を防ぐための100点防止問題として何らかの難問・奇問の類いを必ず数問は入れる。しかし、入試問題は過去問として後々まで残り、関係者に見られ批評されたり、時に問題視されたりもするから(進学指導の高校教師や予備校講師や大学受験ジャーナリズムから)、高校生が使う日本史教科書には載っていない、そこまで荒唐無稽で滅茶苦茶なマニアック過ぎる細かな日本史の傍流歴史知識を問うたり用語を書かせたりする設問は、そう無闇やたらといたずらに大学側も出せないものである。ゆえに荒唐無稽ではない、穏便で常識的な(?)難問・奇問を作ろうとする際の発想パターンは、おそらく確実に出題者の頭の中に入試問題作成の蓄積されたノウハウとしてあるはずで、例えば、

☆数データにからめて数字を聞く(人口や土地面積や生産量、船舶の全長・重量、納税・賞与支給額の個別計算など)。☆日本史のテストなのに、あえて世界史の知識を尋ねる(外交史・海外交渉史にからめて中国史やヨーロッパ史など日本史の教科書には掲載がない、明らかに世界史で学習すべき歴史事項)。☆高校生の教科書レベルを越えた近代経済学史の原理・理論的な突っ込んだ内容を聞く、もしくは論述させる(インフレとデフレ、銀本位制と金本位制、緊縮財政と積極財政の相違など)☆マイナーな地名や地図上の配置を答えさせる(河川や港や山の名称・位置などの歴史地理学的アプローチ)。

大学入試の日本史における出題基準は、高校で使用の教科書と図版史料集に掲載されている事柄であり、それ以外の詳細な専門研究者レベルの問題を出すと、大学入学の判断を下すための、日本史に関する受験生の知識・思考を見極める本来の大学入学試験の趣旨から逸脱してしまう。ゆえに出題者の立場からして難問・奇問を思いつくのは実は案外に難しく、そこまで無尽蔵に作問できず、少なからず以上のような難問・奇問作成の発想パターンはある。だから、高校の進学担当の日本史教師や予備校講師で、完答に近い高得点を取らせるような受験指導をする場合には、そうした難問・奇問のパターンを類型化しピックアップして、1つ1つつぶして学生に克服させていくのが理に合った、まさに「合理的」な日本史の受験対策指導である。

その他にも難問・奇問とは言えないが、

☆設問形式に独自の癖があるため、不慣れだと何となく「難しい」と思ってしまう事例(早稲田大学・教育学部の「正解は1つとはかぎらない」「××をすべて選べ」。同志社大学の「1・2ともに正しい場合、1が正しく2が誤ってる場合…」の2文セットの間違え探し正誤問題など)。☆問題内容よりも、単に設問を捌(さば)く作業が複雑で時間と集中力を要して結果、「難しい」と感じられる事例(慶応大学の語群選択肢が60個以上あって適語選択肢を探して見つけるだけで疲れてしまう問題。上智大学の語群が3つあって、競馬の三連単方式で適切選択肢を3つセットにして選ばせる、非常に細かな何だか神経衰弱パズルのような、かなり面倒くさい解答形式など)

が実際の入試問題にて見られる。

だが、大学入試の日本史における、このような難問・奇問の作成発想パターンは、大学受験指導に素人な私が遊びで問題を解いて気付くくらいなので(笑)、大学受験指導に精通している高校教師や予備校講師の方たちは、日本史過去問入試の教材研究やって、すでに熟知しており日々対策を講じてる事柄であるとは思う。