アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(98)森一郎「試験にでる英単語」

森一郎「試験にでる英単語」(1967年)は、昭和の時代から今日まで増版され続けている受験用英単語集のベストセラーである。通称「でる単」「しけ単」。1967年の初版発行で、2011年8月時点で何と!累計1488万部。著者の森一郎は元は英語教師で都立日比谷高校で教鞭をとり、東大進学指導で高い合格率の実績を挙げていたという。

「試験にでる英単語」以前の従来の英単語集は、主に英字新聞や英語書籍でよく使われる英単語をピックアップし、収録語はアルファベット順で掲載されるのが常であった。しかし、著者の森一郎は、大学受験の試験問題解答に求められる語彙(ごい)と、英字新聞などを読む際の英語文化圏での日常生活で求められる語彙にはへだたりがあることに気付き、また学習効率からすれば多くの従来書のようにアルファベット順ではなく、出題頻度順に掲載するほうが望ましいと考えた。これらの点を踏まえ過去の試験問題を徹底調査し、最も重要な頻出単語から順番に配列して出版されたのが本書であり、この執筆編集コンセプトが「試験にでる英単語」となるわけである。なるほど、英字新聞などを読む際の英語文化圏での日常生活で求められる英単語ではなくて、日本の大学受験英語の「試験にでる英単語」であるのだ。

「試験にでる英単語」の「まえがき」によると、本書は「明治35年以降、大正時代を経て昭和50年の現在に至る約70年間の新制大学・旧制大学・旧制高等学校・旧制高等専門学校の入学試験問題を手元に揃(そろ)え、十数年間にわたって独自の方法で分析調査し整理した結果でき上がったもの」であるという。初版が1960年代の昭和の時代なので、当時は現在のようなコンピューター集計やAIの自動解析による頻出別・重要度順の「試験にでる英単語」のあぶり出しではなくて、著者の森一郎が全て手作業でデーター整理作業を行っていたと思われる。

そういった並々ならぬ、人知れずの相当な苦労が著者の森一郎にあったであろうことから、本書に対する森の思い入れと自信はかなり強いらしく、本書の「まえがき・改訂に際して」にて著者の森一郎は、全国読者の受験生からの難癖・クレームまがいの「質問」にも案外、律儀(りちぎ)に真面目に、時にキレながら(笑)いちいち答えているのが今読み返すと面白い。例えば、

「あなたは、technology、reverie、snobbish、antipathy、frustration、その他多くの重要な語が従来の英単語集に入っていないと言っておられるが、ぼくの持っているA社の単語帳には、そのほとんどがちゃんと収録されている。だからあなたは大うそつきである。…あなたのうそには我慢ができない。著者としての責任ある答えを望む」(「質問・その4」)

という読者からの「大うそつき」呼ばわりの挑発質問に対し、「本書が世に出る以前の大ベストセラーのブームになる前の英単語集には、当時は確かにtechnology、reverie、snobbish、antipathy、frustrationらの語を掲載した書籍はなかった。私の『試験にでる英単語』が売れて、本書での『technology、reverie、snobbish、antipathy、frustration…ら試験に頻出の重要単語が収録されていない』という私の指摘を他の出版社が読んで知り、改訂してそれら単語をそっくりそのまま後日に収録したのである。だから私は大うそつきではない」旨の質問回答を紙上にて森一郎はしている。いちいち真面目に対応する必要もないクレーム質問だとは思うが、それに律儀に答えているのが読んで何だか馬鹿らしい(笑)。

また

「先生のお書きになった英単語集は、あまり多くの人たちが持っているので、大学の先生方もこの本をお調べになって、将来はこの本の中にある単語を試験に出さないようになるのではないでしょうか」(「質問・その5」)

というような妙に心配性すぎる(笑)読者からの質問もある。これに対し、「いったい英単語の中から、本書に収録した単語とその訳語を取り去ったら、何が残るだろうか。それこそ空気を抜いたボールのように、あるいは電池の入っていない懐中電灯のように」云々とこれまた真面目に相手をして著者の森一郎は紙上にて質問回答している。つまりは「『試験にでる英単語 』に掲載されている単語は文章を構成する上で絶対に欠かせないもので、本書に載っている語を使わずに英文記述することなど到底不可能だから、本書に収録してある単語とその訳語がわざと大学受験の英語問題からあらかじめ回避されることはない」と森一郎は言うのであった。それは当たり前だろ(爆笑)。

「『試験にでる英単語 』が売れに売れて、あまりに多くの受験生が持っているので、出題する大学側が将来はこの本の中にある単語をわざと試験に出さないようにする」とか常識的に考えてあるわけないだろ!いちいち真面目に対応する必要もない変に心配しすぎる質問で、それにこれまた律儀に著者の森一郎が答えているのが読んでいて、やっぱり馬鹿らしいのである(笑)。

森一郎「試験にでる英単語」を、私は受験勉強時に使ったことはなかった。高校の副教材で購入させられていた別の英単語集と熟語集でずっと英語の勉強をしていたから。受験が終わって無事に大学進学した後に、本書を改めて入手し初めて読んでみた。確かに、大学受験英語を読む上で必須の絶対に知っておかなければならない定番の英単語が頻出別・重要度順に効率よく掲載されていて、非常に有用である。

英文解釈にて知らない語が出てきた場合、パニックにならず、すぐに諦(あきら)めずに、前後の文脈の因果関係や対立や反復・同義の構造を見切る、接頭・接尾語の原義から推測する、似たスペルの単語を連想して意味の当たりを付ける…など、様々なテクニックがあるが、最初からその英単語の意味を普通に知っていれば、スムーズに英文が読めるのも確かである。より多くの英単語の意味を常日頃から広く知っているに越したことはない。そういった意味で、昭和の時代から今日まで増版され続けている受験用英単語集のベストセラー、森一郎「試験にでる英単語」を手元に置いて読んでおくのは、なかなか有効だと思われる。