アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(63)宮崎尊「東大英語総講義」

近年では東進ハイスクールに出講し、「東大英語」など難関大学対策の上級者レベルの英語を主に担当している宮崎尊について、この方は私が高校生だった1980年代から有名予備校講師としてご活躍で、氏のことは昔から知っていた。当時は「スイスイ頭に入る英単語の集中講義」(1990年)や「メキメキ力がつく受験英語の集中講義」(1990年)の氏の大学受験参考書が出ていたし、また旺文社「大学受験ラジオ講座」(通称「ラ講」)の講師も宮崎尊は務め、昔から幅広く活躍されていた。

今となっては「スイスイ頭に入る英単語の集中講義」の大学受験参考書は、私には非常に懐かしく思い出される。最近では普通に当たり前のように指導されているが、機能語(前置詞、接続詞、助動詞)や多義語や基幹動詞の理解に際し、原義である核(コア)となる基本の意味が必ず1つあるから、その原義のコア・イメージを最初に押さえておき、それからその原義の核イメージから枝葉な各々の細かな意味・用法を理解して覚えるという、いわば「抽象の基本の原義から具体の詳細な意味・用法へ」という英単語理解の指導を大学受験英語でほぼ最初に大々的にやり始めたのが、おそらく宮崎尊だった。

例えば前置詞の「for」に関し、「for」の原義は「対象を遠方から包括的に見る」である。その原義の意味から「対象を遠方から包括的に見る」ので「方向」(─へ向けて)や、「対象を遠方から包括的に見る」ことで「目的・意向」(─のために)の意味が生まれたり、さらには対象を遠方から包括的に見続けていると「交換」(─に代えて)の欲求も新たに生じたり、身体と気持ちの関心が対象の方向へ包括目視で向いているから「賛成・味方」(─に賛成して、─を支持して)の意味にもなったり、「対象を遠方から包括的に見る」ことを通して「基準」(─の割には)の判断が出来たり、はたまた前置詞以外で「for」は接続詞にもなって、「対象を遠方から包括的に見る」ことの俯瞰(ふかん)により初めて可能になる「理由説明」(─というのは)の様々な意味・用法を持つのであった。要するに前置詞・接続詞の「for」といえば、最初から「方向」や「目的・意向」や「交換」や「理由説明」ら複数の意味内容をバラバラに個別に覚えるのではなく、まずは「for」の原義を理解し、そこから「抽象→具体」の思考の手順で本質理解しながら各意味・用法を覚えて「for」という英語を英文読解でも英作文でも自在に使いこなせるようにしておけ、といった指導である。そうしたことが宮崎尊「スイスイ頭に入る英単語の集中講義」に書いてあった。

宮崎「スイスイ頭に入る英単語の集中講義」の昔の英語参考書を今は手放してしまって私は所有していないが、機会があれば再び入手して読み返してみたい。私が高校生だった当時、大学受験に使える英語学習の書籍で私が特に気に入っていたのは、宮崎尊「スイスイ頭に入る英単語の集中講義」と山口俊治「英文法講義の実況中継」(1985年)と岩波新書のピーターセン「日本人の英語」(1988年)だった。その中で宮崎の書籍だけ今では絶版の入手困難で再読できない。宮崎尊「スイスイ頭に入る英単語の集中講義」と「メキメキ力がつく受験英語の集中講義」は名著だと思う。両書の再版・復刊を私は強く望む。宮崎尊という人は大学受験英語を教えてはいるけれど、この人は翻訳などもやり、もともと英語そのものをよく知っている方なので、いつも氏の教える英語は「本質的で明るい」の好印象だ。

さて、近年に宮崎尊が執筆の大学受験参考書「東大英語総講義」(2014年)である。本書が発売された際、私は喜びのあまり即購入した。当時、この宮崎の著書とならんで、Z会で東大英語指導をしていた著者による柿崎理「東大英語の総合的研究」(2014年)の東大の二次試験英語対策の参考書も出ていた。東進ハイスクールの予備校生やZ会の通信添削の会員にならなくても、誰でも購入できる書店売りの参考書でここまで詳しい解説の良心的な東大英語に関する書籍が出るとは予想外のうれしい驚きだった。

宮崎尊「東大英語総講義」の帯には次のようにある。

「色んなもの、やるな。この1冊でいい!数多くの受験生を東大合格に導いた宮崎尊先生、渾身の書き下ろし!」

「色んなもの、やるな。この1冊でいい!」。なるほど、本書は総合的な東大英語対策の参考書としてほぼ全ての項目が網羅され指導されている。すなわち、文法・語法、短文精読、長文読解(評論文と小説)、基本語の用法と口語表現、英文ライティング、リスニング。どの章も東大の過去問の英文を使っての解説講義が最初にあり、その後に実戦の問題演習となっている。

「東大英語総講義」の本書は、読者に東大受験生を想定しているため、さすがにその講義内容は高度で難しい。本書にあるのは、おそらく全国の標準的な普通科の高校では教科書にも載っておらず、ゆえに現役生には教えられることはない、予備校の先生が予備校生に向けてやる東大英語攻略のための本格的な大学受験英語だ。例えば、長文読解での評論文における論理展開パターンの提示によるパラグラフ・リーディングや、長文読解の小説における構造分析(語り、場面、伏線)の講義は、読んで「なるほど」と感心させられる。同様に長文読解における速読について、英文の構造を即座に見切り先を予測して読むことで早く読めるという速読指南(例えば、英文中に「between」の語が出てきたら「between・A・and・B」 の形になるから即予測して後に出てくる「and」を探しながら素早く読めというような指導)も参考になる。その他、英文ライティングのいわゆる英作文で「使える論述パターン」や「基本例文の型」をあらかじめインプットしておき、漠然と書き出さずに英作の際には、それら論述パターンと基本例文の型に当てはめて使い倒すというライティングの方法論も、非ネイティブで英語が第二言語である日本人の英作には効果があると考えられ、その英作文指導は非常に合理的で納得できるものだ。

本書「はじめに」に書いてある「過去二十数年、東大受験生の指導に携わり、多くの人たちを見てきたが、東大英語をクリアして合格する人に共通する特徴」という著者の宮崎尊が挙げる「東大に受かる人の特徴」の5ヶ条は、東大英語をクリアするために日頃からどのような思考や学習姿勢が必要なのかが本質的に述べられており、これも大変に参考になる。のみならず、この5ヶ条は東大合格のための大学受験英語だけでなく、大学生や社会人が長い将来に渡って広く深く英語を使いこなすための心構えとしても有益であり、必読といえる。