アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(62)本正弘「英語長文講義の実況中継」

「英語長文講義の実況中継」(1990年)らの著作がある元代々木ゼミナールの英語講師である本正弘その人について、私は実際に氏の講義を受けたり、お会いしたことはないが、英語の大学受験参考書を介して氏のことはそれとなく知ってはいた。ここで詳しくは述べないけれど、40代の若さで早くに亡くなった本正弘の事情を氏の周りの人々からの話で後に伝え聞き、かつ予備校産業に関する私の実際の確かな見聞も加味すれば、予備校講師というのは肉体的にも時に経済的にも、また特に精神的に大変に過酷な職業であると思う。

マスメディアへの露出や衛星講義や書店売りの大学受験参考書を通し全国的に有名で一躍人気のカリスマ予備校講師になれば、収入も莫大で社会的な人生の成功を得られるのかもしれないが、そうした有名スターになる人は、ほんの一握りの例外中の例外。ほとんどの大多数の予備校講師は非正規雇用の更新契約制で終身の契約なく、精神疾患を含む病欠対応など社会保障のケアもなく、不安定な雇用に晒(さら)され続ける。まさに予備校講師の悲哀である。昔も今も予備校講師は不安定な職業で、一握りの売れっ子人気講師はよくても他の多くの人達は「使い捨ての悲哀」を味わう残酷な職場なのだから、仮に私の周囲で予備校文化にハマりカリスマ人気の予備校講師に憧れ、予備校産業に従事したいと考えている親しい人がいたら、「悪い事は言わないから、とりあえず予備校講師だけはやめておけ。以前に本正弘という英語の講師がいてね」云々の率直なアドバイスを私は送るだろう。

英語の予備校講師の本正弘その人について改めて述べるとすれば、以下の通りだ。

「本正弘(もと・まさひろ)1953─94年(?)は、元代々木ゼミナール講師、元近畿予備校講師。1980年代後半に駿台予備学校で教え、後に代ゼミ大阪校に移籍した。現代文講師の出口汪が代ゼミから独立してS-P-S(スーパー・プレップ・スクール)を立ち上げた際、初代英語講師に内定していたが、初講日を待たずして亡くなった。この辺りの事情は本正弘と親交が深かった出口汪の著書に詳しい」

本正弘は、英文を返り読みせずに左から右へ読んでいく直読の読解法を指導した。著書の「英語長文講義の実況中継」初級・中級・上級コース(1990年)は広く読まれており、社会人向けに「英文直読TRY・AGAIN!」(2006年)も出されている。直読法を推進する本正弘によれば、昨今、入試問題が長文化傾向にある。この試験対策には、より速く、そして正確に読む力が一番大事だ。英語のリズムそのままに書いてある通り「左から右へ(返り読みは厳禁!)」と意味を捉えていく。読解スピードを重視し、書かれてある英文の頭からどんどん意味をとっていき、日本語表現としては多少不自然であっても英語の原文の流れに即した理解に徹する。これを直読法という。つまりは、直読法は目に入ってくる英語の語順そのままに読み取っていくのでリスニング強化にも直結する。

本正弘が英語を指導する予備校講師として大変に優れており、日本人への英語教育に貢献した誠に優秀な人であったことは、私のような英語指導に門外漢の素人な氏の大学受験参考書愛読の読者が今さらあえてわざわざ言うことでもない。大学受験英語指導における直読法教授の本正弘先生の功績を讃(たた)える。