アメジローのつれづれ(集成)

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大学受験参考書を読む(80)大谷浩三「日本史論述テーマ24」

河合塾の河合出版から出ている大谷浩三「日本史論述テーマ24」(1991年)は、前回紹介した河合出版の大谷浩三・岡野尚起・田中君於「入試日本史・日本史精説」(1988年)の副読本の実戦問題集のような書籍だ。「日本史精説」にて著書みずから「(本参考書では)教科書よりさらに詳しく解説してあります」と述べていたように、特に早稲田や慶応ら難関私大の日本史入試に対応できるよう、やたら詳しく解説していた。一方、今回の「日本史論述テーマ24」は、難関私立の記号式選択対策ではなくて、「難関国公立大学の論述二次試験に対応できるように」との(おそらくは)シリーズ編成出版元の河合出版からの気遣いであると思われる。

本書はタイトル通りの「日本史論述テーマ24」の24題の基本例題にて、原始・古代から近現代までの論述例題が収録されている。本書サブタイトルに「入試ハイレベル攻略」とあるように、この24題は確かに「ハイレベル」でそこそこ難しい。しかし解説の過程が全問に共通して丁寧で親切であるので、独学の自宅学習でほとんどの受験生は本参考書を介して日本史論述の学力を養成できる。

「日本史論述テーマ24」の24題の演習のあり様はこうだ。まず「この形式の論述は」のブロックがあって論述問題のタイプ(問い方)の分析をなし、全体の論述構成・展開、論述に当たり注意すべきこと・書いてはいけないことを箇条書きにして挙げる。次に「なぜここがつっこまれるか」で作問者の出題意図、本問を通して出題者が受験生に聞きたいこと・書かせたがっていること、書き手がためされていることの加点要件の概要を述べる。続けて「基礎知識は正確か」で本論述を書くに当たり、必要となる細かな歴史事項や用語を具体的にまとめの形式で挙げる。そして最後に「解答例」を掲載する構成になっている。さらにその後に「頻出重要歴史用語・記述」なる本論述に関連した周辺知識の補足説明があり、いよいよ最後は類題追加の「実践問題」で、実際に出題された難関大の日本史論述過去問が解答・解説と共に収録されている。全編を通じて「日本史論述テーマ24」の各問ともに相当に丁寧な論述解説になっている。

大学入試日本史論述の過去問を日々遊びで解いている私の感触からして、入試問題は近年の2000年代以降のものよりも、昔の1970年代から80年代にかけてのものの方が各大学ともに全般に難しいという印象だ。これは昔は大学進学率も低くて、大学へ行く人は「ある程度、しっかり勉強ができる」の本当の意味で学力のある人しか進学志望しなかったし、また進学できなかった。それに学生を受け入れる大学側も受験生に対して、それなりの高い学力を入試選抜で求めて、あまりにも低成績な人には入学許可しない「大学側のプライド」もあったと思う。

近年の2000年代以降、今日の大学入試問題は昔のものと比べて全般に易しくなっている。このことは昨今の全日制普通科の高校でのカリキュラム上の必修科目数と教科書内容の範囲・難度が、故意に削減・限定・易化されていることからもよく分かる。また最近は少子化の影響で大学進学志望の学生が前よりも激減しており、「大学全入時代」(大学志望者よりも受け入れ側の大学の募集定員の方が多く、進学希望者は入学したい大学ブランドにこだわらなければ、基本的に大学に無試験で全入学できる状況)といわれる時代で、大学経営の事情からして学生の学力は二の次で、とりあえず入学生の人数を確保したい大学側の思惑による入試問題の易化、さらには学力試験の負担を減らす入試科目の削減(2科目や1科目入試、面接・小論文のみの入試)や推薦入学、提携高校からの内部進学枠の確保にて、今日の大学入試問題は全般に昔のものと比べて易化の傾向にあるといってよい。

大谷浩三「日本史論述テーマ24」ら昔の大学受験参考書を読むと、最近の日本史論述対策の書籍よりも非常に詳細でそれなりに難しく手強(てごわ)く感じてしまうのは、以上のような大学受験を取り巻く社会状況の変化に遠からず由来している、というのがとりあえずの私の結論である。