アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(81)西尾陽一郎「覚えやすい英単語」

河合塾の河合出版から出ている西尾陽一郎「覚えやすい英単語」(1990年)は、多義語編と語源編と難関大単語編の三部構成からなる単語帳である。本書タイトルが「覚えやすい」となっているのは、例えば、ある単語の語源の基本の語義を最初に示し、そこから樹形図にして様々に枝分かれした意味・用法を網羅して一気に覚えさせる要領の良さにある。それゆえ「覚えやすい英単語」なのである。同様に、多義語にて覚えるべき複数の意味・用法をまとめて挙げる。また難関大に頻出の英単語を集中して載せる。ゆえに「覚えやすい英単語」なのであった。

ところで私は、英語を本格的に学び始めの高校生の頃には、なかなか英単語を覚えられなくて非常に苦労した。高校の授業で指定の単語帳からの英単語テストが毎回あって、そこで合格点が取れないと放課後の再テストや課題提出のペナルティを荷重に科されて大変だったのである。高校入学直後からしばらくは英単語を覚えるのに相当苦労した。しかし苦しみながらも英単語を覚えていく作業を連日続けていると、なぜか不思議なことに、ある時を境に突然よく英単語が頭にスムーズに入り定着して、前よりも明らかに思考のギアが一段上がって非常によく覚えられるようになった。

この現象を分析するに、それは自身の中で英字の配列のパターンを見切れるようになったというか、だいたい予測して英単語の成り立ちスペルを理解できるようになったからだと思う。典型的な接頭語や接尾語(「Pre」や「―tain」など)のパターン把握に加えて、こういうアルファベットの連続つながりは英語にはないことなどの要領を得て、以前は一文字ずつ厳密に暗記しようとしていたものが、ある程度の英字のつながりのひとまとめにて、より効率的に確実に覚えられるようになってきた。一定の時間をかけて、まさに自分の頭が英単語の英字のパターン配列を見切れたことで、結果として「ある時を境に突然よく英単語が頭にスムーズに入り定着して、前よりも明らかに思考のギアが一段上がって非常によく覚えられるようになった」ということだと思う。

このことはより厳密に心理学的に言って、記憶学習における「レミニセンス現象」を通しての上達と解することができる。すなわち、記憶学習における「レミニセンス現象」とは、

「記憶の直後には今できたばかりの記憶痕跡が互いに抑制し合うため直後の再生はうまくいかないが、しかしその抑制作用が止(や)んだ後には再生が容易になる。よって記憶の直後よりも、しばらく時を経る方が痕跡相互がよりまとまり整理され記憶が体制化されて結果、記憶の再生が容易になる現象」

のことである。

私達の実際の経験でも、スポーツ技術習得など言語を介しない「非陳述記憶」や試験勉強や仕事の手配・段取りの言葉を使った「陳述記憶」にて、詳しく教えられたけれど記憶の直後にはミスが多く、なかなか上手に出来なかったのに、しばらく時間経過して失敗を繰り返しながらもめげずに根気よく継続して努力を重ねていると、ある瞬間から突然、驚くほど飛躍的に向上し上達して上手に出来るようになることがある。いわゆる「コツをつかんだ」「要領がつかめて見切れた」「ようやく自分のものにできた」というような感覚の体得である。

あれこそが「レミニセンス現象」であり、記憶・要領が自身の中で体制化して定着するには即ではなく、ある程度の時間をかけて徐々に自分の中に沈澱(ちんでん)して、ゆっくり定着し神経間の組織化が保持され、相互の連関が緊密に形成される。それは表面的な模倣や即席の「インスタント記憶」ではなく、いわば「遂には自身の血肉になる。初めて自分の腹の底から感得し本当の意味で分かる」状態になるのだと思う。だから、スポーツの技術習得でも勉強の成績向上でも教えられたのにすぐに出来なくて成果が出なくとも、そこで諦(あきら)めてはいけない。人は記銘し覚えても記憶・要領が安定し体制化されるまで上手く再生できない。記憶や要領が自身の中で緊密に組織化して定着するのを待つ停滞期間が少なからず必要である。その事を知り「レミニセンス現象」による習得体制化までのタイムラグ(時間のズレ)を想定し、事前に繰り込んだ上で根気よく努力を続けなければならない。

これは、英語初学者の学び始めにおける英単語の記憶の要領にても同様だ。