アメジローのつれづれ(集成)

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大学受験参考書を読む(82)伊田裕「古文講義の実況中継」

伊田裕「古文講義の実況中継」上下(1988年)は、私には非常に懐かしい大学受験参考書だ。1980年代、高校生の頃に私は本書を読んで古文の勉強をしていた。

伊田「古文講義の実況中継」は上下の二巻で、タイトルは「古文講義」となっているが、厳密には「古典文法講義」である。著者の伊田裕は河合塾の古文講師で、本書「はしがき」には「この本は、私の河合塾での『古典文法』の講義を、その内容と雰囲気を忠実に再現する形でまとめたものです」とある。よって上下二巻で全二十回の講義となっているが、順番に動詞・形容詞・形容動詞の講義(全5回)から始めて、中途で助動詞の講義(全10回)がメインとなり、終盤に助詞の講義(全4回)をやって、最後に「特別講義」(全1回)で「識別問題」の解法(助動詞、助詞、動詞・形容詞・形容動詞の一部らの相違の識別、見極め方法)で締める講義カリキュラムになっている。

著者の伊田裕については、この人は河合塾専任の古文講師であり、本参考書の奥付(おくづけ)の著者紹介には次のようにある。

「伊田裕(いだ・ゆたか)河合塾専任講師。古典文法の構造を切れ味よく解明し、実戦力に高める技量はピカ一。量より質を重視するその講義は、感覚的な丸覚えの勉強の悪弊に染まった受験生の頭をあっさり一変させてみせる。ソフトな人柄とあいまって人気は抜群。『河合塾の古文』を担うホープの一人である」

伊田裕「古文講義の実況中継」は上下の二冊を通して「とことん古典文法」な内容で、例題古文をことごとく品詞分解しながら文法解説するものである。動詞なら活用行・活用の種類・活用形(例えば「ラ行・四段活用・連用形」など)を、助動詞なら意味と活用形(例えば「完了『ぬ』の連体形」など)、助詞であれば種別の見極め(「格助詞か接続助詞か副助詞か終助詞か」など)と意味というように。その中途で副詞の呼応、係り結び、敬語の用法、重要古語、古典常識らに便宜、触れるという構成になっている。しかし、やはり講義の中心は古典文法であり、本講義の中でかなりの分量を割(さ)いている助動詞の文法説明は相当に詳しい解説となっている。

本書を読むと分かるが、著者の伊田裕が「古文講義の実況中継」の中で繰り返し述べているのは、単なる暗記の無味乾燥な古文文法ではなくて、本質から理解して結果、覚えて入試問題にて実戦的に使える「生きた文法」を教えたいとする強い姿勢である。それは先に引用した本参考書奥付の著者紹介からも感得できる所である。まさに「古典文法の構造を切れ味よく解明し、実戦力に高める技量はピカ一。量より質を重視するその講義は、感覚的な丸覚えの勉強の悪弊に染まった受験生の頭をあっさり一変させてみせる」ような、伊田裕「古文講義の実況中継」なのであった。

冒頭で書いたように、高校生の頃に私は本書を読んで古文の勉強をしていたので、伊田「古文講義の実況中継」は自分には非常に懐かしい大学受験参考書である。本参考書を読んで「さすがに予備校のプロ講師は教え方が上手いな。高校の古文の先生の授業とは違って日々の教材研究も過去問研究に基づく実戦的な入試対策も、予備校の先生はきちんと親切に教えてくれて正直、感動した」といった当時よりの心持ちであった。数十年前に本書を介して古典文法を学び、今も鮮明に覚えていて最近でも日本史の史料で古文を読む際に、以下のような古典の文法事項に当たると私は伊田裕「古文講義の実況中継」のことをつい思い出してしまう。例えば、

(1)打消の助動詞「ず」に、「ざり」活用があるのはなぜか。それは助動詞は原則として動詞に付くものであるため(だから「動詞」の補「助」で助動詞なのである)、打消の助動詞「ず」の後にさらに助動詞を続けたい場合には間に形式的な動詞「あり」を一度はさまなければならない。つまりは、打消の助動詞「ず」の後にさらに助動詞を続けたい場合には「ず+あり+助動詞」という形に必ずなるので、その「ず+あり」が一語となって「ざり」という音になり、結果「ざり」活用が打消の助動詞「ず」にできた(上巻・129・130ページ)。

(2)格助詞「の」の同格では、「体言+の…連体形+(同じ体言の省略)+助詞」の形になる。このように公式化できる(下巻・162・163ページ)

らの文法事項教授の素晴らしさ、手際(てぎわ)の良さに感動した。それらのことが私は今でも忘れられない。

さて、それから時は過ぎ私は大学受験を何とか突破して大学進学し、その後無事に学校を卒業して、しかし今でもたまに大学受験参考書を読んだり、大学入試の過去問を遊びで解いたりしていたが、1980年代の数十年前に読んだ「古文講義の実況中継」の伊田裕について、氏の最新の大学受験参考書が近年、伊田「入試によく出る・古文の徹底演習」(2020年)で新刊で出ているのを書店店頭で見つけて、また少し感動した。1988年初版の伊田裕「古文講義の実況中継」の著者紹介には「ソフトな人柄とあいまって人気は抜群。『河合塾の古文』を担うホープの一人である」とあった「ホープ(新人)」の河合塾の古文講師の伊田裕は、あれから30年以上経って2020年の今でも河合塾の古文講師で「『河合塾の古文』のベテラン」として教壇に立っておられて今般、新刊の古文の参考書、伊田裕「入試によく出る・古文の徹底演習」を出されたとは!の驚きの感動があったのである。