アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(73)霜栄「現代文解答力の開発講座」

駿台予備学校の霜栄「現代文読解力の開発講座」(2011年)以来の約10年ぶりとなる、霜師による「開発講座シリーズ」の第二弾「現代文解答力の開発講座」(2023年)である。私は昔から前著の「現代文読解力の開発講座」を愛読して大変な良書と感心していたけれども、まさか10年以上の間をはさんで「現代文の開発講座」の第二弾が出るとは思ってもみなかったな。新著の霜栄「現代文解答力の開発講座」を早速、購入してやってみた。

前の「現代文読解力の開発講座」では「読解力」の養成が主眼で、「論理的に文章を読んでいって筆者のイイタイコトをつかまえる」となっていた。この「現代文読解の要訣は筆者のイイタイコトをつかまえる」とする「大学受験の現代文はイイタイコト探し」というのは、昔に駿台予備学校に藤田修一という現代文講師がいて氏が最初に言い始めて後にそれが広まり、大学受験指導で駿台以外の予備校でも、かなりの現代文講師が「文章読解ではただ漠然と読むのではなく、筆者のイイタイコトを探せ!」と力説するようになった。霜栄は駿台予備学校の現代文科の現在の主任であるので、霜師も先人の藤田師の「イイタイコト探し」の駿台の現代文指導の伝統を正統に継承した人という印象が私にはあった。                 

今回の「現代文解答力の開発講座」では「解答力」の養成が主眼となっている。「開発」目標が「読解力」ではなく「解答力」に変わっているのだ。そして、この変化に対応するように、以前の「読解力の開発講座」では「論理的に読んで筆者のイイタイコトをつかまえる」指導になっていたのが、今回の「解答力の開発講座」では「出題者のキキタイコトに的確に解答できる思考力を鍛える」受験現代文の指導になっている。第一弾の「読解力の開発講座は筆者のイイタイコト」をつかみ、第二弾の「解答力の開発講座は出題者のキキタイコト」をつかまえるというようにキレイに対(つい)をなして、旧著と新著とで霜栄の「開発講座シリーズ」はあまりにも狙いすぎ、形式的に整いすぎている嫌いも正直、私にはあるが(苦笑)。

霜栄「現代文解答力の開発講座」は全七問の実際の大学入試過去問の改題の掲載にて、入試過去問の設問形式にそれぞれ対応した各講義(レッスン)となっている。例えば第一講は空所補充、第二講は抜き出し・脱文挿入、第三講は指示語・傍線部説明、第四講では比喩・内容一致の解き方(解答力)らを順次、演習・解説するというように。こうした各講にて一つずつ各設問形式別に対応した入試現代文の解き方を着実に丁寧に教えるというのが、本書「現代文解答力の開発講座」での「筆者のイイタイコトに加えて、出題者のキキタイコトもつかまえる。出題者のキキタイコトに的確に解答できる思考力を鍛える」受験現代文指導に実に見合っているといえる。

私の読後の印象として、この「設問形式別に各講にて入試現代文の解き方を丁寧に教える」という主旨内容は、各章別の演習問題の形式選択と解説の構成が堀木博禮「入門編・現代文のトレーニング」(2003年)とかなり似ているように思えた。堀木の著書も、設問形式別(段落、指示語、空欄補入、傍線部説明、内容判定、要約)の基本問題を各章ごとに順番にやらせて、現代文の基礎力養成をねらうものだった。霜「現代文解答力の開発講座」は、堀木「入門編・現代文のトレーニング」にその読み味は相当に近い。

さて「現代文解答力の開発講座」は、空所補充や指示語・傍線部説明や正誤判別ら様々な設問に特化した現代文読解の演習指導で解説が大変に丁寧なのはよいが、掲載の問題が易しすぎる難点がある。また課題の問題文も各文が比較的短いので、その点でも全ての演習問題が相当に易しく感じる。この点に関しては、どうやら本書はもともと現役高校生向けの学校専売で一般書店売不可の教材を、今般あらたに再編集し書店販売の大学受験参考書として世に出したもの、という話も聞く。

その他、設問を解く以前に、基礎的な課題文要約の手順をクドいくらいに霜師は紙上にて丁寧に解説してくれる。以前の「現代文読解力の開発講座」でも「読解力開発問題」として、実際の入試過去問にはない、課題文を100文字程度で要約する本参考書独自の特別問題を各講に課していた。前著の「現代文読解力の開発講座」ではその要約の手順はあまり詳しく解説されていなかったが、今回の「現代文解答力の開発講座」では相当に詳細に、霜師がいうところの「三つの思考力(客観的思考力・論理的思考力・構造的思考力)」をフルに活用して極めて論理的かつ図式的に要約の方法が説明されている。

霜栄「現代文解答力の開発講座」は、前著「現代文読解力の開発講座」とは違い、その易化した演習問題とさらに丁寧な解説講義から、本書は大学受験の現代文対策をこれから本格的に始める新入学の高校一年生か、入試現代文を一から学び直しの浪人生が春先の早い時期にやるべき基礎固めの最初の一冊であると思う。正直、本書だけでは大学入試の現代文突破は心もとない。「現代文解答力の開発講座」に加えて、難しい上級の現代文問題集を後に続けてやるべきである。