アメジローのつれづれ(集成)

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大学受験参考書を読む(74)青木邦容「選べる 書ける 真現代文」

代々木ゼミナールの現代文講師、青木邦容「選べる・書ける・真現代文・解答作成法大全」(1999年)は良い参考書というか、大学受験現代文の非常に良い問題集である。

まず本書は大学入試の過去問全7問を掲載で、冒頭のプレ講義を含め全六講からなるが、演習の問題がそこそこ難しい現代文入試の過去問なので非常にやりがいがある。大学受験の現代文の場合、易しい問題ばかりやっていては実力がつかないと思う。実際にやってみて自分が解けない到底完答には程遠いような、自身にとって明らかにレベルの高い問題をやって「なぜ自分には解けないのか」「どうして間違えてしまったのか!?」の分析をやりながら、そこそこ難しい現代文入試の良問の過去問演習を繰り返し重ねていくと確実に実力がついてくる。易しい問題ばかりを連続して解いて自分を誤魔化していては駄目だ、現代文の学習に際しては。

例えば本書「選べる・書ける・真現代文」に掲載の第一講の演習問題、第1問は中野孝次「我等が生けるけふの日」(1978年)出典の問題である。これは課題文本文はスラスラ読めて意味も要旨もすぐに取れて簡単なのに、内容が適切な選択肢の判別や本文傍線部と同じ意味・反対の意味の語句の見極めにて非常に細かな選択眼の緻密(ちみつ)な思考が要求され、結果として問題がかなり難しくなっている。本参考書にはどこの大学の過去問か記されていないけれど、おそらく本書中の第1問、中野孝次「我等が生けるけふの日」出典の問題は早稲田大学の現代文の過去問だと思われる。設問の選択肢のまぎらわしい作り方、設問の独特な問い(「文脈上から最適なものを選べ」「同じ意味に使われている言葉・反対の意味で使われている言葉を選べ」など)が、明らかに早稲田の過去問に似ている。

早稲田大学を始めとする難関私立大学は、二次試験まである国公立大学とは違って試験が一回しかないし、しかも多くの志願者が受験するため採点に手間がかかる記述式に対応できず、マーク式の記号選択形式の試験のみなので「勘(かん)で何となく」で適当に選んで、たまたま上手い具合に記号選択がほぼ合って、本当は学力もないのに運だけで合格するような学生を大学側は取りたくないのである。そういった幸運だけの実力が伴わない学生を入学させたくない。それで適当に「勘で何となく」でやっても必ずしも容易に解答にたどり着けないような、非常に入り組んで練(ね)りに練った相当に細かな選択眼の緻密な思考が要求される現代文の大学入試問題を早稲田を始めとする難関私立大学は昔から出題する。私の感触として、早稲田大学ら難関私大の現代文入試は事前に過去問に当たり研究し対策しておかないと、いきなりの前知識なしでは完解や合格ラインであろう所の7割から8割の得点確保の線まで、普通の人は行かないと思う。

こうした難関私立の非常に厳しい過去問が演習として収録されているし、その他、そこそこ難しいとされるセンター試験の現代文評論や国公立大学二次試験の記述の過去問(おそらく東京大学か京都大学の現代文の問題だと思われる)も本書にはある。とにかく、かなりやりがいのある現代文の問題が多彩にあるのである。

加えて「選べる・書ける・真現代文」では著者の青木邦容による解説も丁寧で親切である。「読みつなぎ」と称する著者による課題文の図解(ダイヤグラム)にて、言い換えや対立らの文構造をビジュアル的に分かりやすく説明してくれる。また記述問題にて、解答文の構造や加点要素と目される必ず書き入れるべき必須語句らの指摘も的確で、記述解答の作り方とその採点基準が細かく指示され大変に丁寧な解説である。この部分にも私は感心した。

青木邦容「選べる・書ける・真現代文・解答作成法大全」は、記号式にて正しい選択肢が「選べる」、同様に記述式にて適切な解答文が「書ける」の両方を指導するものだが、それぞれに著者が提唱の公式化された方法(「解答作成法」)があり、それら公式パターンを全部まとめて「解答作成法大全」とするのである。この現代文の解法公式の「解答作成法」には、特に改めて公式として提示されなくても、私達が文章を読み書きする際には当たり前のこととして日頃から無意識に活用しているようなものもある。かと思えば、本書で「解答作成法大全」として公式化され示されて、初めて「なるほど」と私は納得して「これから意識的に使ってみたい」と思えるような、文章の読み書きに関するテクニック的なものもあった。

ただ著者の青木邦容という人のことを私はあまりよく知らないのだが、この人はプロレスファンの方なのか、「チョップ読み」とか「否定バックドロップの法則」とか「時と場所でポン!」など、どうも昭和のプロレスの必殺技のような安っぽい幼稚なネーミングを自身が考案の「解答作成法」の現代文公式に安易に連発で付けてしまうところがツッコミどころか(苦笑)。