アメジローのつれづれ(集成)

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大学受験参考書を読む(75)船口明「船口の現代文〈読〉と〈解〉のストラテジー」

船口明は昔は主に関西圏に出講していて、後に東京に進出し河合塾、代々木ゼミナールら大手予備校への移籍をなした人気の現代文講師である。特にセンター現代文の対策指導には昔から定評がある方である。

船口明「船口の現代文〈読〉と〈解〉のストラテジー」(2001年)は代ゼミ在籍時の書店売りの大学受験参考書であり、そのため本書は代々木ライブラリーから出ている。本書タイトルにある「ストラテジー」とは「戦略」の意味である。よって大学入試現代文に挑(いど)むに当たり、ただ漫然とやるのではなく、課題文読解の「読」も、また特に記述問題解答の「解」も、ある一定の「ストラテジー(戦略)」を持ってやるべきとする趣旨である。しかも本文中の船口明によれば、「単なるコテ先のテクニックを教える予定は一切ありません」ともある。本書での「現代文〈読〉と〈解〉のストラテジー」という戦略は、確かに「単なるコテ先のテクニック」ではなく、本質的な読解の戦略教授であることがこの問題集をやると、なるほどよく分かる。

船口明「船口の現代文〈読〉と〈解〉のストラテジー」は全七講の全七問の大学入試過去問からなる。しかも全問が国公立大学二次試験の記述式問題である。過去問の出題大学は東北大、東京大、九州大、名古屋大、岩手大である。

本書では主に対立の論理的思考を使う現代文評論の大学入試問題を扱っている。というか、全7問の国公立大学二次の記述式問題すべてが対立発想の論理思考を使って解く問題で、そうした型(タイプ)の過去問ばかり、著者の船口明は最初からわざと集めて固めている(笑)。こうした点からして、本書は国公立大二次試験の現代文評論の記述式対策、初級編の親切な参考書といえる。

本書で集中的に取り上げられている、現代文評論にての対立の論理的思考というのは次のようなことだ。評論文を読む時も、記述式の解答を作成する際にもただ漠然と読んで書くのではなく、いつも対立の構図の図式を作ってあぶり出すようにする。例えば「変化」といえば、厳密に言って「AからBへ」の移行であるから必ず「AとB」の対立で捉えてそれら対比の構造が浮かび上がるような思考をする。同様に「推移・経過」といった場合には、時間的経過に従って「AからB、さらにはCへ」の各変化があるはずだから、「AとB、ないしはC」の対立で捉えて対比の構造を必ず押さえる。例えば「も」の並列・添加の表現があれば、「A+Bも」の図式がすぐ頭の中に思い浮かんで「これまでのAの要素に、どんなBの情報が対応し新たにプラスされて『A+Bも』の並列・添加になるのか」、「AとB」の対立で理解するのが定石(じょうせき)である。

それで本書に収録の記述問題には、傍線部に「ナンセンス」「皮肉」「逆説」「相対化」らの抽象語が含まれていて、その「傍線部の意味・理由を説明せよ」の設問指示にほぼなっている。例えば「ナンセンス」というのは、「本来は有意なAの意味であるのに、いつのまにか無意味なBの解釈に変わってしまっていること」の意であるので、このフレーム(記述解答文の型)に本文中から読み取った「AとB」の対立内容を書き込んで解答作成すればよいわけである。同様に「逆説」といえば「Aの作用・意味を目しての働きかけが、なぜか反対で逆のBの作用・意味になってしまうこと」であるから、このフレームを基本に「逆説」における「AとB」の対立構造を押さえて解答すればよいことになる。

その他、「一般論・俗説はAだが、課題文中の筆者の主張はそれらに反論するB」といったの課題文全体を大きく貫く「AとB」の対立構造などについても、本書は国公立大二次試験の現代文評論の過去問演習を通してとても丁寧に教えてくれる。船口明「船口の現代文〈読〉と〈解〉のストラテジー」は、総じて国公立大二次試験の現代文評論、記述式対策の非常に親切な良書といえる。