アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(72)霜栄「現代文読解力の開発講座」

「価値判断は相対的」である。私達が物事に対し、ある一定の価値判断を下す時、常にそのものだけを見つめて唯一の絶対的判断を下している訳では決してなくて、意識的であれ無意識的であれ、実は他の同種なものと比較考量し、その結果「これは良い」とか「これは優れている」の相対的な価値判断を下している。

 駿台予備学校の霜栄「現代文読解力の開発講座」(2011年)は昔から知っていたが、以前はそこまで良く出来た参考書だとは正直、思えなかった。しかしながら後々、他の現代文の参考書を平行して読んで各本の内容を知るにつれ、これが不思議な事に「価値判断は相対的」の原理から「もしかしたら霜栄の『開発講座』は良著!?少なくとも他の現代文の大学受験参考書で霜さんの『現代文読解力の開発講座』以上によく出来た完成された書籍はない」という比較考量の相対的判断が働いて、結果「霜師の『開発講座』は良い書籍だな」になる(笑)。

 現代文の参考書を連続して読んでいくと、各著者による問題アプローチの方法論やその人なりの教え方の重点の相違が少なからずあって、「どれも一長一短」といった印象を私は持つ。その点、霜栄「現代文読解力の開発講座」は総合的に現代文教授の各要素がバランスよく入っていて内容が充実している。まず、意味段落に分けて要約をさせる霜師独自の「読解力開発問題」が各問にある。この「読解力開発問題」から、段落ごとに要約して各段落どうしの関係性を見抜いてテーマとなるキーワードを探す。何しろ以上のことを最低限、全部やらないと「読解力開発問題」の要約問題は多分できないと思われる。

本文解説も対比や具体化・抽象化や列挙・添加ら、様々なパターン構造を持つ評論文を全10題のなかに偏(かたよ)りなく均等に散らして入れており、参考書を編(あ)む際の著者なりの問題選択の工夫が見受けられて非常に心憎い。空欄補充の解説は前後の因果や語句の繰り返し、表現のズレの言い換え、論説文全体に広くある抽象・具体や対立構造に着目した解法の思考過程を明示する筋道通った説明である。記号選択の選択肢の吟味も他の現代文の参考書と比べたら、明らかな間違い、言い過ぎ、内容欠落がある、一般論で本文に書いてない、本文中の用語をとりあえずつなぎ合わせて作っていて意味不明の誤選択肢のパターン網羅で、「比較的ていねいな解説である」と思う。評論特有の語句や用語の最低限の意味説明もあるし、「雑音(ノイズ)」と称した霜師による評論テーマに関する軽い解説の読み物もある。

さらに問題がそこそこ難しいので、やりがいがある。センター試験、早稲田大学、東京大学あたりの過去問が解説されてある。やはり現代文の場合は易しい問題ばかりをやっていたら力がつかないと思う。難しい問題を何度も繰り返しやるのが良いのではないか。また一冊で完結なので、よくあるシリーズ物の現代文参考書のように露骨な教材販売の商売に走らず、何冊も購入しなくてよい所も感心する。これ一冊だけをひたすら修行のごとく何回も繰り返しやる。毎日1問ずつ解いていっても10日で完成。1ヶ月あれば最低3回は繰り返しできる。それで霜栄「現代文読解力の開発講座」を6周くらい繰り返し反復でやって、さらに最後に問題文の評論を全部ノートに書き写すとか(笑)。

ただ本参考書の若干の問題点として私は昔から気になっていたのだが、誤選択肢に対し「これはタコツボ」とか、要旨の見極めについて「イイタイコトにとび蹴りする」など著者の言葉遣いが、いい年齢をした大人なのに幼稚すぎて軽すぎる。特に霜栄は本参考書にて、誤選択肢に対し「この選択肢はタコツボ」とか、「これを選んでしまった人はタコツボです」などと頻繁に言うが、「タコツボってどういう意味なのか!? 」「何がタコツボで、一体どこが良くないのか!?」私には全く分からなかった。

近年、霜栄「生きるセンター漢字・小説語句」(2015年)の練習例文が差別、下品、性的表現(下ネタ)を含み悪ふざけで不適切と社会的に問題になったが、そうした著者の霜栄の奇(き)をてらうような独りよがりなウケ狙いの非常識さの脇の甘さは、「現代文読解力の開発講座」の参考書紙上での幼稚な言葉遣いにて昔からそれとなく透けて見えていたような気が私はした。