アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

東京スカパラダイスオーケストラ大百科(6)「トーキョー・ストラット」(谷中敦)

アルバム「トーキョー・ストラット」の頃になると「東京スカパラダイスオーケストラ」も、前作「グランプリ」での多彩なセッションを経て「スカかどうか」のこだわりなく、どのような曲でも照らいなく何でもやる。「YMO」やケン・イシイのカバーなど。

前者のYMOは、高橋幸宏つながりでドラムの青木達之の好みが入っていると思うし(何しろ「シムーン」のカバーをやっており選曲が玄人だ)、後者のケン・イシイは、電子音楽のクラブ・ミュージックを全部手動の金管楽器でわざと人力でやるという変わった試みで、おそらく「毎回何かしら新しいことやりたい」冷牟田竜之のアイデアだと思われる。他方、スカに関しても川上つよしの「You・Don't・know(What・Ska・is)」(「あら、スカの味をご存知ないのね」、もしくは「お前ら、スカの何たるかを全くわかっちゃいない」)もあり、一聴して全体にバラエティーに富んだ面白いアルバムだ。

この「トーキョー・ストラット」を最後にスカパラ2代目ギターの寺師徹は後に脱退する。寺師徹はトロンボーンの北原雅彦と同じ学校の同窓であり、非常に陽気な人で寺師のライヴMCが面白かった。スカパラ・スーツが寺師だけ、なぜか半ズボンという(笑)。寺師徹のスカパラ脱退は、私は残念だった。

谷中敦さんのことなど。バリトンサックス担当。谷中敦は、昔はアラン・ドロン(Alain・Delon)のような、きれいでキザでハンサムな整ったスカした二枚目路線だったのに、いつの間にかヒゲの短髪で酒を飲んで人生を語って周りに説教するワイルドな豪快キャラに変わっていた(笑)。

もともとスカパラは、谷中敦、川上つよし、沖祐市、青木達之が同じ学年でスカパラ結成前から仲間で親しくて、皆がバンドをやっていて谷中敦は楽器演奏ではなくボーカルで歌っていた。そうしたら川上、沖、青木の各氏がスカパラに誘われて、谷中が「ヤバい、友達とられる」くらいの勢いで焦っていたら、バンマスのASA-CHANGから「谷中君は身体がデカいからバリトンサックスやると似合いますよ」と言われた。「身体がデカい」谷中敦、当時は物流現場で肉体労働のアルバイトをやっていて、そのバイトで貯めた金があったのでバリトンサックスを「男の一括買い」で即購入する。そして初心の一から練習でスカパラのメンバーとなり、北原雅彦やガモウに譜面の読み方を教えてもらう。「楽器演奏が初心者の人で技術習得のスタートが遅くても、普通にプロのミュージシャンになれるんだな」と私は感心した。実際、最初の頃は裏打ちしかやらせてもらえなかったらしい。しかし、そこから練習と経験を積んでレベルアップを果たし、徐々にバリトン・ソロを獲得していく。谷中敦はカッコいいな。

昔は谷中は、いつも楽屋では常にバリトンサックスを手離さず持って吹いて音を出して練習していたらしい。そしたらドラムの青木が、いい加減うるさくてやめて欲しくて遠回しにやんわりと「谷中は本当に練習好きだよね」という。そしたら谷中は「ああ俺、練習好きだよ」といってまた黙々とバリトンを吹き続ける。それで「ダメだこりゃ、何言っても谷中、練習やめないよ(笑)」。

ライヴMCでも毎回、谷中敦は大活躍だ。「盛り上がる準備はいいかぁ」とか「戦うように楽しんでくれよ!」云々の言い回しは、いかにも谷中らしい。実際ライヴでもよく語る。前にライヴMCで「サッカーの話」(?)から本格的に長く人生を語る説教モードに入りそうになり、「このままじゃ客が冷める」と判断した冷牟田が谷中の話の途中で次の曲のゴー・サインを勝手に出して、気持ちよく語っていた谷中が「あー」となって谷中のMC強制終了で曲再開のような(笑)、おもしろい場面があった。この人は大学で哲学か文学かを専攻していて「言葉の人」だから、「自分にとって音楽とは?」の質問に「メッセージ」と即答する。近年のスカパラの歌モノ・コラボでの作詞はすべて谷中敦が手がけているが、チバユウスケ「カナリア鳴く空」や奥田民生「美しく燃える森」の歌詞は秀逸だ。単に好いた惚(ほ)れたのラヴソングではないし、今流行の変な気持ち悪い励ましの応援ソングでもない。洗練された大人の詞が書ける谷中敦のような人は、なかなかいないので貴重だと思う。

しかし、その一方で谷中なりにバリトン担当としての迷いもあった。「結局、バリトンの音なんてなくってもバンドは成立するんだよ。スカパラに俺なんかいなくても。頭で言葉で色々考えると、またその分だけ悩んじゃうから、そういうのが辛かった」。そういえば谷中は、一時期ライヴでバリトンサックスではなくてフルートを吹いていたときもあった。スカパラが外部の人をゲストに迎え歌モノのコラボを頻繁にするようになって、谷中敦は根っからの「言葉の人」で彼に言わせれば「音楽はメッセージ」だから積極的に作詞をするようになっていた。そしてMCともども「谷中さんは言葉に救われた人なんだ!」と、「言葉で救われて、バンド内で悩みながらもスカパラ途中で辞めずにとどまって続けられて、スカパラを自分の財産にできた人なんだ!」と谷中敦に最大の敬意を表し私は強く思う。

谷中敦の演奏で好きなのは、沖祐市の口笛とコンビの「スタア・スタア・スタア」だ。また昔は、よくステージ上で北原雅彦のトローンボン・ソロ対谷中敦のバリトン・ソロの「吹かし合い対決」のバトルをやっていて初期スカパラ・ライヴの一つの見どころだった。あとは「ホール・イン・ワン」や「仁義なき戦い」カバーでのバリトン・ソロ。特に「ホール・イン・ワン」は、何度も繰り返しライヴで演奏されるので時代別に聴いていると分かる、谷中のバリトン・ソロが、だんだん雑になっている。昔はもう少し丁寧に吹いていた。だが、スカパラは海外のフェスなどに頻繁に行くようになってからバンド全体で以前のクラブ・サウンドの延長のように細かく丁寧にやるよりは、より激しくて速いパンクなノリの演奏に変わって行っていると思う。これまたライヴでよくやる「花ふぶき・愛だろっ!愛っ」も昔はゆっくりだったのに、近年のライヴではだんだん曲演奏が速くなってきている(笑)。

近年のスカパラの歌モノでは、片平里菜をゲスト・ボーカルに迎えた「嘘をつく唇」が特に素晴らしい。何よりも谷中の歌詞がよいし、ガモウの作曲も面白いし、片平の歌い方も雰囲気がある。「嘘をつく唇」PVは初回視聴では気づかないが、2回目以降、北原雅彦が狭いダストボックスに入ってずっと隠れて待機の情景を想像するたび、PV冒頭から私は笑いっぱなしである。北原雅彦の出オチのギャグが(爆笑)。「あの狭い箱の中に北原さんが隠れていて、もうすぐ飛び出すぞ(笑)」。「嘘をつく唇」は近年のスカパラの歌モノ楽曲の中で私は一番気に入っている。