アメジローのつれづれ(集成)

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大学受験参考書を読む(2)富田一彦「富田の英文読解100の原則」(その1)

富田一彦「富田の英文読解100の原則」(1994年)は、氏による論理的な英文精読の方法教授の大学受験参考書であり、「英文以外の、トピックの背景にある常識的前知識を活用する」や「前後の文脈で」や「行間を読む」の「何となく」な英文解釈が厳禁の参考書である。そのため意味を取って日本語訳を作る以前に文型や各単語の品詞について便宜、適切に判断処理しなくてはならない。だから、本書に当たる以前に最低限度の英文法の理解や動詞の語法に関する知識は必要なはずだ。

本書にて例えば、副詞節「as・S+V」の後が「完全な文なら時・理由、不完全なら様態」とする解説がある。「asのS+V以下が完全な文か不完全な文か」の見極めなど、そもそも英文法の文型についての理解がないと判断できないし、また同様に動詞に関する語法の知識があって、この動詞は自動詞で「S+V」の第一文型で終わって文が完結するが、他方この動詞は他動詞で「S+V+O」や「S+V+O+O」の第三、第四文型を通常はとるにもかかわらず、目的語が欠落しているから不完全といったようなことを普段から分かっていないと「as・S+V」以下が果たして完全な文か、欠落ある不完全な文か到底、独力では判断できない。そのため本書に臨むに当たり、基本の英文法や動詞の語法に関する知識は最低限あらかじめ必要だ。その上で毎日一題ずつ問題を解いて氏の解説を読んで理解を深めていくと、かなりの短期間で英文が正確に精読できるようになるに違いない。

また、例えば「目的語にthat節をとる動詞はすべて思考・発言を示す。『考える』『言う』を訳の基本にすればよい」のような時間をかけて多くの英文を読む経験を重ねていけば、やがては誰もが普通に気づくであろう「英文解釈上の知恵」を前もって手際(てぎわ)よく教えてくれるので、短期間で効率的に英文読解力を向上させるのに非常に有益な書籍だ。

一般的に言って英語を読む場合には一文単位のミクロの英文精読でも、英文全体の要旨を把握するマクロの英文読解でも「抽象と具体、対立構造、因果関係」の3つの論理を使って英語を読むことが必須である。富田一彦は、この三大論理のうちで特に因果関係が相当に気に入っているようで、本書にての構文解説でも頻繁に使う。英文を因果関係で突き刺して文要素を「原因と結果」に峻別(しゅんべつ)する。例えば「A・reflect・B」があれば、厳密な日本語訳を組み立てる以前に、まずは「Aが結果でBが原因」の把握が必須というような指導だ。その他「consist・of」(…で成り立っている)、「be・based・on」(…に基づいている)などの英文でも、この人は前後を原因と結果の因果関係に毎回律儀(りちぎ)に分け強引に解釈しようとする(笑)。また「secret 」という「秘密」の単語が出てくれば、「秘密=隠された事実・考え」の意味から「(その隠された)理由は…」の毎度の因果関係で無理に訳したがる(爆笑)。

おそらく氏が英文を読む際に因果のロジックを使用しているのだろうし、また構文解説にて、この因果関係を使うと分かりやすく学生を納得させる説明ができるので大変に重宝して富田は因果関係を多用しているのだと思う。それはよいとして、であるならば他の抽象・具体と対立構造の論理も偏(かたよ)りなく、因果関係と同程度に類型パターンのまとめを詳細にやって「因果関係同様、抽象・具体と対立構造も英文解釈にて非常に有用で使えること」を網羅的・有機的に教えてくれたら、と私は本書を読んでいていつも思う。

「富田の英文読解100の原則」に関し「動詞の数-1=接続詞の数」のルールについて、「実際に英文を読むとき、そんな引き算をいちいちやって動詞や接続詞の数を数える人はいない」とする批判の書評をよく見かけるが、あれはあくまでも氏による「教え方の方便」である。英語の初心者で英文解釈が初めての人は、「とりあえずは『V-1』の引き算から始めなさい」というだけのことでしかない。実際にネイティブや英語に慣れている日本人なら、そうした引き算などしなくとも普通に主節のVは一読で見極められると思うし、現実に富田一彦も英文を読むときに、そのような引き算をして動詞の数を数えることなどいちいちやってはいないはずだ。

事実、「V-1」の引き算解説が出てくるのは「富田の英文読解100の原則」の上巻の最初の解説部分だけであるし、下巻ではそうした「引き算ルールで動詞の数をかぞえる」について氏も殊更(ことさら)に言及してはいないので、あれは「超初心者向けの教え方の方便」であって、そこまで酷評して批判するほどのことではない。