アメジローのつれづれ(集成)

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大学受験参考書を読む(49)酒井敏行「酒井の現代文ミラクルアイランド 評論篇」

前回に取り上げた中野清「中野のガッツ漢文・改訂新版」(1996年)同様、酒井敏行「酒井の現代文ミラクルアイランド・評論篇」(1997年)も、以前に大和書房が「受験面白参考書」シリーズで出していたものを近年、情況出版が復刊するという形態になっている。

情況出版といえば、日本共産党から離反した共産主義者同盟(ブント)が出している月刊誌「情況」の出版元だが、なぜその情況出版が代々木ゼミナールの現代文の人気講師、酒井敏行の参考書を復刊するのかといえば、それは中野清と同様、酒井敏行が反戦平和を志向する反体制の左翼心情の持ち主だから。例えば、以下は「酒井の現代文ミラクルアイランド」のはしがき並びに帯に記された文章である。

「大学に受かるためだけの勉強では結局受かりません。それを超えて大学で学ぶための勉強をする意欲で努力していきましょう。人生苦しいときが登り坂です。共に連帯して、大学受験の体制を粉砕し青春の自由解放区を勝ち取ろうよ」

この文面を見ただけで共産主義者同盟の左派の情況出版編集部の面々が、酒井の文章中の「共に連帯」「大学受験の体制を粉砕」「青春の自由解放区を勝ち取る」の各文言に異常に反応し歓喜して、勢いのノリで自社での復刊を決めたであろう情況編集部内の光景が目に浮かぶ(笑)。

酒井敏行の現代文読解の方法は「論理」である。すなわち「理=わける」と「論=つなぐ・まとめる」。だから、評論問題では表現と内容から「理」の「わける」で対立する二つの系統を図式化し板書して、それぞれの系の言い換えや内容の深まりを「論」で「つないで」行く。そして、それら二つの対立系統が次元を高めてより「まとまって」統一されたり、また再び「理」で二つに「わかれ」て展開したりする。

酒井の「わける」と「つなぐ」は、テーゼとアンチ・テーゼがあって、この対立する二つの命題がアウフヘーベン(止揚)されてジンテーゼという弁証法的発展が、おそらくは元ネタである。そもそも「理」の「わける」で対立する二つの系統に枝分かれする図式を毎回、必ず作り込むところが、いかにも「ベタな二項対立思考の近代主義」という感じが正直、私はする。昔からマルクス主義者や左派の理論家は、世界や人間を必ず二つに分けたがる。「観念論と唯物論」「支配する階級と支配される階級」というように。酒井敏行の現代文の読み方教授が反戦平和を志向する反体制の氏の左翼心情的思考に由来し、ある程度、支えられていることは間違いない。

私は昔から思っていたが、酒井敏行の現代文講義を受けた方は実際にテストで評論文を読むとき、いちいち氏が毎回授業で板書しているような、あの枝分かれの系統図式をその都度問題用紙余白などにメモし書き足しながら文章を読み進めていくのか!?それとも酒井の読解アプローチを会得して完璧に自分のものにできれば、いちいちメモなどしなくとも頭の中に、あの枝分かれした系図が自然に浮かんで来て即座にスラスラと評論文が読めて日々の読書にも応用できるものなのか。

酒井敏行は自身が出身の母校、早稲田大学を心底愛していて、特に早稲田の現代文に特化した講義をやる人だ。もちろん、センター試験や一般私大対策も幅広くこなされるのだろうけど、この人の早稲田対策の現代文講義は昔から定評があり評判がよかった。