アメジローのつれづれ(集成)

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大学受験参考書を読む(65)横田伸敬「横田の交響曲(シンフォニー)日本史」

横田伸敬「横田の交響曲(シンフォニー)日本史」(1989年)は、大和書房の「受験面白参考書」(略して「オモ参」というらしい)の大学受験参考書シリーズの中の一冊である。何よりもタイトルの「交響曲(シンフォニー)日本史」にて、「交響曲」の「シンフォニー」が「日本史」のアナグラム(単語の文字順序を並べ替えることで全く別の意味にさせる言葉遊びのこと)になっていることに私は今まで気づいていなかったので、本書を介して今更ながら驚かされた。「シンフォニー」→「ニホ(フォ)ンシ」になっているのだ。

私は本参考書の著者である横田伸敬という人についてほとんど知らないのだが、この人は大阪出身で、どうやら本書が出された1980年代には関西の予備校で大学受験の日本史指導をされていた方だと思われる。そのためか「横田の交響曲(シンフォニー)日本史」を読むと所々でコテコテの関西弁が出てきて、紙上講義にて読み手の受験生のウケを狙(ねら)う語りの雑談も満載である。「関西人は常に貪欲(どんよく)に笑いを取りに来るな」の思いがする。この意味で「受験面白参考書」(略して「オモ参」)シリーズの中で、本書ほど「受験面白参考書」の「面白(おもしろ)」の趣旨を踏まえたシリーズにふさわしい書籍はないと思われるほどだ。

ただ本参考書で著者の横田伸敬が書いている、時にコテコテの関西弁での渾身(こんしん)の雑談の脱線トークは、冷静に読んで笑えないし、実の所そこまで面白くはない(苦笑)。昔の予備校文化で人気講師の講義中になされる雑談が「相当に面白い!」と評判になることはよくあったが、あれは当日に満席の大教室で多人数で聞くからその場の高揚した講義の雰囲気も手伝って、瞬間的に「面白い!」と感じられてしまうのだと思う。ああいうのは録音したものや紙面に文字起こししたものを改めて後日、冷静に一人で聞き直したり読んだりしてみると案外「そこまで面白いわけではない」の感想になるのでは、という気はする。

本書は200ページほどで原始・古代から近現代まで全ての時代を全40の項に分け解説講義している。「交響曲(シンフォニー)日本史」だけに原始・古代は第Ⅰ楽章であり、中世は第Ⅱ楽章、近世は第Ⅲ楽章で、近現代は第Ⅳ楽章の「交響曲」編成になっている。各項の講義は、まず「セオリー」と呼ばれる「××を把握せよ」といったアドバイスがあり、次に「公式」と呼ばれる簡略なまとめの図式が掲載されている。その上で京都大学や早稲田大学ら難関大学のそこそこ難しい日本史入試の過去問の「例題」が載せてあって、前掲の「公式」を活用すればそれら難関大学の日本史過去問が解ける流れになっている。ただし、著者によって示される「公式」の簡略な図式のまとめは、後にやる入試過去問の「例題」が解けるよう周到に逆算して、その問題から「公式」のまとめを著者が作成しているか、もしくはその「公式」まとめに対応して完答できる入試過去問だけ著者が懸命に探し出し、わざと選んで載せて結果、「『横田の交響曲(シンフォニー)日本史』での『公式』は使える公式で万能で効果あり」の宣伝を単にしているだけのようにも思える。本参考書のみで実際の大学受験日本史に対応できて合格できるのか、私には大いに疑問である。

その他、本書には語呂合わせを主とした「覚え方」というのが時々、出てくる。それら「覚え方」は、なかなかよく考えられており(こうした歴史語句や年号の語呂合わせの記憶法を思い付くのが上手な人というのは、どこにでもいるものだ)、とても参考になる。例えば以下のような「江戸時代の農村における商品経済の浸透」の項での「四木三草」(四木とは桑・楮・茶・漆。三草とは麻・藍・紅花)の「覚え方」はよく出来ていて、「なるほど」と思わず私は感心してしまった。

「あさ(麻)口べに(紅花)をぬった人があい(藍)さつをしてくれたので、うれし(うるし・漆)くなって顔のこうぞ(楮)うをくわ(桑)しくみたら、めちゃ(茶)くちゃだった」