アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

東京スカパラダイスオーケストラ大百科(2)「東京スカパラダイスオーケストラ」(ナーゴ)

前回より始まった特集「東京スカパラダイスオーケストラ大百科」、まずはスカパラのデビュー音源の話から。黄色ジャケットの「東京スカパラダイスオーケストラ」は、「スカパラ登場」のメジャー・デビュー以前にインディーズでアナログで出したミニアルバムで後に再発でCD化された。この(おそらくは)最初のオリジナル音源がスカパラの核(コア)の部分であり、スカパラがスカパラたる所以(ゆえん)を遺憾なく詰め込んだ音であるような気がする。

スカパラがやっているスカは唯一無二、まさしく「東京スカ」であり、オリジナリティにあふれる。私は決して音楽に詳しいわけではなく日々様々なバンドの音を聴いてるわけでもないので違っているかもしれないが、本場のスカはレゲエ・ベースで牧歌的でジャズの要素もあってアドリブ演奏を曲間に長く入れたり、もっとフリーでゆったりとしている。本家のロック・ステディの「スカタライツ」(Skatalites)も裏打ちはゆっくりだし、そこに味があって「それがまた良し」というような。何しろスカは南国ジャマイカの音楽だから。

しかしスカパラの場合、まさしく「東京スカ」である。とにかく洗練されている。裏打ちが非常に鋭(するど)い。リズムやメロディがタイトでシャープで明らかにクラブ文化の音が入って尖(とが)っていて、楽曲全体がキビキビしている。スカは後にニュー・ウェーヴのロックにその要素が取り入れられ2トーン・スカになって、「スペシャルズ」(Specials)や「マッドネス」(Madness)ら、お笑いのコミカルさも加味しつつロック・シーンに普及するけれど、スペシャルズの裏打ちもスカパラほど鋭くタイトではない。かたやスカパラは初期に昭和歌謡のテイストあれど、お笑いの要素は少なく、それ抜きにして比較的真面目に律儀(りちぎ)にスカをやる。しかもスカパラはホーンセクションの金管楽器を吹くメンバーがかなりの玄人プロで、演奏自体がイギリスのニュー・ウェーヴの2トーン・スカのバンドよりも格段に上手い。例えばスカパラの北原雅彦のようなトロンボーンであそこまで太いデカい音を安定して出して、しかも細かくスライドを刻み抑揚をつけて自在に吹きまくれる人は海外ミュージシャンでも滅多にいないのではないか。

スカパラ以外では1990年代にアメリカから「スカコア」という新ジャンルが出て来て大変に流行して、なかでも「ヴードゥー・グロウ・スカルズ」(Voodoo・Glow・Skulls)というスパニッシュ系のアメリカのバンドがスゴくて彼らの音源を一時期、私は愛聴していた。とにかくホーンの音が厚くて重くて、しかも裏打ちが異常に速い。「これはギャグなのか!?」笑ってしまうほどにハードコアなスカのスカコアだ(笑)。そのバンドのホーンの人達は「高速で吹けてテクニックがあってスゴいな」と思ったが、スカパラ以外で私が感心してのめり込んだスカのバンドはそれくらいだ。

さて、黄ジャケの「東京スカパラダイスオーケストラ」に関しては「ペドラーズ」と「スキャラバン」この最初の2曲ですでにノックアウト。スゴい鋭角なスカだ。「スキャラバン」はスカパラのメンバー、ライヴ通算で何回くらい演奏しているのだろう。いつもライヴの最後のアンコールは「スキャラバン」か「モンスター・ロック」だった、昔私がライヴに通っていた頃は。その他、このアルバムの聴き所は「ペドラーズ」がロシア民謡のカバーなので、曲中でパーカッションのASA-CHANGが「ピローシキー」と叫ぶところ(笑)。あとは「スカンボ」でガモウが、これまた明らかにガモウと分かるいかにも「らしい」感じで「ウーッ」とか「アーッ」などキメの合いの手を入れるところ、この2つでいつも私は爆笑だ。

ナーゴさんのことなど。トランペット担当。今では「NARGO」の表記だけれど、スカパラが出始めの頃は「名古屋・ナーゴ・君義」というミドルネームのような感じだった。

この人は、さわやかな男前である。穏(おだ)やかで、おおらかで誠実というか。ガモウの「娘ができたら嫁にやりたい」という気持ちはよくわかる。ナーゴは名古屋家の男兄弟の末っ子らしい。そういえばこの人は、よい意味で弟気質な方である。我(エゴ)が強くなくて素直で従順、真面目な人の好印象だ。しかしスカパラを知り始めた頃は、トランペットのナーゴとドラムの青木達之の雰囲気が似ていて私は見分けがつかなかった。スカパラはナーゴを始めとして谷中敦や大森はじめ、昔いた青木達之ら甘いマスクのハンサムな方が多い。

クラブツアーやオールスタンディングのライヴのとき、いつも私はナーゴと北原の前辺りによく立つ。それでライヴ後半で時々ポジションが入れ替わって、ガモウと谷中が私の前に来る(笑)。実際にライヴ会場で毎回、実物で見るナーゴは、いつも礼儀正しくてさわやかな男前だった。メンバー紹介のとき、トランペットを優しく抱くような(言葉では説明しにくい)彼の折り目正しいお辞儀の挨拶など接する人皆に好印象を残す。

ナーゴは基本、控えめな方だ。谷中がMCで「たまにはナーゴ、一言」と振っても、あまり喋(しゃべ)らない印象がある。トランペットは裏打ちではなく、主旋律なので演奏を引っ張る花形パートなところがあると思う。だが彼はステージ中央でソロパートを吹いたら、すぐ後ろに下がったりして慎(つつし)みがあるというか、「俺が!俺が!」のワンマンで前に出る人ではない。そうした控えめでわきまえある彼が主旋のトランペットで楽曲を引っ張っていたりするところが、「スカパラホーンズはよく出来てるな。うまく役割分担されてるな」と率直に思い感心する。集団組織やグループというのは、誰か一人がリーダーで主役で前に出て他を引率・指導というのではなくて、皆が自分にしかできないパートの役割分担があって、各自が出しゃばらずにそれぞれ自分の担当を一生懸命にやって、同時に他のメンバーも尊重して風通しよい民主政のような、そういった「スカパラのバンド内力学」こそが理想ではないか。

ナーゴの服装ファッションも私は好みだ。丈の短い比較的コンパクトな彼特有のスカパラ・スーツ(スカパラは生地や絵柄は皆同一なモッズ・スーツだが、実はメンバー個人ごとに各自の体型やキャラクターに合わせた細かなスーツの型設定がある)。その他、ナーゴの眼鏡や帽子の小物使い、スカパラのモッズ・スーツ下に合わせるTシャツ類の選択まで、すべてに清潔感がある。テレビや雑誌メディア、ライヴ会場で実際に目にするたびに感心して彼の着こなしを秘(ひそ)かに私は参考にしていた。服屋に行って「ナーゴさんのような雰囲気に」と内心、思いながら(笑)。

ナーゴ曲では「バーニング・スケール」(「燃え上がるウロコ」はゴジラのイメージ)が特に好きだ。彼の演奏では「ザ・ルック・オブ・ラヴ」(恋の面影)の静かでストイックな演奏ぶりが、やはり良い。その他、ギムラ追悼の日比谷野音でやった「グー・ガン・ガン」のソロで、トランペット・ソロを堂々とスラスラ吹いて吹き終わりトランペットを誇らしく片手上げするところ。あとはドラムの青木達之の急逝直後に敢行したライヴ・ツアー「荒野を走る」の最終日のステージでの「インターセプター」の最後、ベース・ソロとギター・ソロが終わって皆で手拍子してトランペット登場を待って、ナーゴが満を持して登場。ステージど真ん中でトランペット・ソロを荒ぶって吹きまくって他のスカパラメンバー全員が暴れ狂うところは強く印象に残る。

近年の曲なら「Paradise・Has・No・Border」は、さすがの名曲でインストの「東京スカ」の雛型(ひながた)だ。「パラダイス・ハズ・ノー・ボーダー」は、スカパラの代表曲として後々まで残り、スカパラによる本演奏以外に学生の吹奏楽でも定番楽曲として今後も末長く演奏され続けるのではないか。そういった意味では、「ノー・ボーダー」の作曲者たるナーゴのスカパラ内での近年のバンドへの貢献度は相当に高いと思われる。