アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

東京スカパラダイスオーケストラ大百科(15)「Justa Record Compilation vol.1」(沖祐市)

「東京スカパラダイスオーケストラ」のメンバーはDJもやったりするので(現メンバーの谷中、川上や元メンバーの青木、冷牟田あたり)、クラブで回す皿のネタを日々考えて案外、悩んでいるのではないか。

昔は関西でスカパラのライヴを見た後に京都・丸太町のクラブ「メトロ」に行くと、これまたライヴ終わりの谷中敦が夜遅く普通にDJをやっていたりした。ついで話を脱線すると、京都の河原町三条に結構有名な甘味処があって、酒とタバコはやらないが甘いものが大好きな北原雅彦がスカパラがライヴで関西に入るときはよく立ち寄るという噂があり、ライヴ前後にそのビル界隈を私はうろちょろしていた。「ドレッドでヒゲの人が来ないかな」って(笑)。

スカパラは、まだ青木達之がいたときにクラブネタ音源を出す目的で「JUSTAレコード」というレーベルを作る。音源以外にも「JUSTAマガジン」という雑誌も当時は出していた。「Justa・Record・Compilation・vol.1」は、そのレーベル・コンピの2枚組でスカパラ関連では隠れた名盤だと私は思っているのだけれど。スカ、ダブ、ブレイクビーツ、ドラムンベースの基本「クラブでかける」の前提音源で、どの曲も「踊れる仕様」になっている。私はいつも夜の車のカーステで聴いているのだが、本収録の「スキャラバン」リミックスは実にブッ飛ぶ。思わず車のアクセルを踏む(笑)。映画「仁義なき戦い」のテーマから曲が始まるわ、途中でクリーンヘッド・ギムラの叫び声が入るわで、あのブッ壊れた感じが圧巻だ。未聴な方は本当に「一度はダマされたと思って」是非、お薦めする。あとは杉村ルイボーカルの「Ska・Jerk」や、「The・Movin'on・Dub」はオールスタンディングでライヴが始まる前の客入れのとき、会場内で流れていてライヴに行くたび昔よく聴いた。冷牟田竜之の声で「マーズ、ジュピター…」と惑星の名前を順番に言っていくやつだ。この2枚組コンピはスカパラ関連の隠れた名盤ではないか。

沖祐市さんのことなど。キーボード担当。まったくの前知識なく、たまたま初めて行ったスカパラのライヴにて、沖祐市が例のデカいキーボードを小脇に抱えステージ中央に出てきて豪快にキーボードを弾きまるくるのを見た時、とりあえず度肝を抜かれた。何だか荒くれの漁師がデカい生きたままのピチピチと跳(は)ねるカツオを担いでステージに突然、上がってきたアクシデントを目撃したような衝撃の第一印象だった(笑)。

ショルキー(ショルダー式の簡易キーボード)ではなくて、「デカくて重い据え置きのキーボードをそのまま小脇に抱えて前に出てきて弾きまくる」というのを寡聞(かぶん)な私はスカパラの沖祐市で初めて見たので正直、驚いた。「こういうキーボード横抱えの力わざパフォーマンスが、まだまだあったのか。まんまとやられた。見事に一本とられた」の、さわやかな敗北感があった。実際にあれは力がいると思う。彼が愛用のヒョウ柄のキーボードは重そうだし。「キーボード抱えは首にくる」で沖は、いつの間にかやらなくなったけれど。沖祐市は身体がデカくて力がある肉体派だから、以前にライヴで演奏中にアキレス腱を痛めて休演したこともあった。

昔の沖祐市は、あごヒゲを生やしていなくてツルツルで、後に今のようなヒゲづらになって、前にテレビで「ダウンタウン」の歌番組に出たとき、松本人志から「普通に見たら笑ってるのに上下ひっくり返して見たら怒ってる人のような、だまし絵みたいな顔ですね」とか言われていた(笑)。

沖祐市に関し私が強く印象に残っているのは、ドラムの青木達之がいなくなって、スカパラに茂木欣一を正式メンバーで入れるときのエピソードだ。最初は冷牟田竜之が元「ブランキー・ジェット・シティ(Blankey・Jet・City)の中村達也氏を正式ドラマーとしてスカパラに迎えたい」と言って、そうしたら沖が「いや、中村さんはハードな攻める曲のときはいいけど、その他の曲やることも考えたら欣ちゃんの方が色々なパターンの曲に広く対応できるから」。それで前からヘルプのサポートをやっていた茂木欣一にスカパラに正式加入してもらう。確か、そういったことだったと思う。 スカパラのメンバーはツアーで泊まりの時は、だいたい二人一部屋で、いつも沖と茂木のペアで二人は特に仲がよい。まだ茂木欣一がスカパラでドラムを叩き初めなとき、ライヴで北原雅彦が「ドラムのリズムが遅い(怒)」と直後のバックステージで言って、そこですかさず沖が「欣ちゃん、ごめんね。うちのバンド、ライヴだと尺が速くなるから」。沖祐市は、さりげなく優しくフォローができるいい人だ。この人は「気は優しくて力持ち」の情に厚い人情派なのである。

よくメンバー紹介でスカパラのメンバー自ら「天才・沖祐市」と言っているので、この人は皆が当然のごとく認めて一目置く「天才」であるに違いない。確かに沖のキーボード・ソロはスゴい。沖祐市の父上はプロのオルガン奏者であるらしい。

沖曲で好きなのは、口笛を吹いてアコーディオン伴奏をする「君と僕」だ。あとは顔の表情で演奏する沖祐市(笑)。「バーニング・スケール」の間奏ピアノでタッチトーンで指圧のミュート効かせながら、ものすごい大げさな顔をして表情で鍵盤を叩く沖祐市が私には、いつも笑いのツボである。近年のライヴで定番の「沖ソロ」コーナーでも、顔の表情で自在に演奏する沖に毎回爆笑だ。その他「パイレーツのテーマ」での前に出てきて一人泣きの妙に吹っ切れた変な小芝居(?)も良いし(彼は真面目な人なので、あんな面白い小芝居は実生活ではやらないはず。しかしスカパラのライヴ・ステージ上では果敢にやる。それがこの人の「スカパラ愛」だ)、「バンバイア」で楽曲を引っ張って、ピアノでスラスラ主旋を弾く沖祐市も強く印象に残る。