アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

フリッパーズ・ギター 小沢と小山田(5)「ヘッド博士の世界塔」(その1)

「フリッパーズ・ギター」(Flippers・Guitar)の3枚目のオリジナル・アルバム「ヘッド博士の世界塔」が残念ながらラスト・アルバムで、「ヘッド博士」発表後にフリッパーズ・ギターは解散してしまう。「ヘッド博士の世界塔」はコンセプト・アルバムだ。つまりはアルバム収録の1曲ごとに独立しているのではなく、収録各曲がそれぞれの部分のパーツで各々の曲が役割を持って、収録曲全てでアルバム全体の世界観、まさに「ヘッド博士の世界塔」を構築するかたちになっている。

「ヘッド博士」のアルバムは入口から序奏へ、はたまたアルバム最大のクライマックスから最後の締めまで実に順序よく手際(てぎわ)よく構成立てて、あらかじめよく考えて作られている。冒頭1曲目から計算され順序立てて整序され徐々に盛り上がって行き、ちょうど7曲目の「奈落のクイズマスター」にアルバム全体の最大のクライマックスの聴き所の山場が来るよう前もって効果的に各曲を配置してある。以下はアルバム完成直後、雑誌インタビューでの編集者と小沢健二とのやりとりである。

「編集者─このアルバムのメッセージ的なものが、まさに『それはこれなんだ』的に音楽として提示されているのが、7曲目の『奈落のクイズマスター』と思うんだけども…」「小沢─この曲は、今回のアルバムの中では最初の方にできたしねぇ。この曲でワーッと、そうだ、これで行くんだ!って思ったことはすごく深い」

小沢の言葉通り、「奈落のクイズマスター」がアルバム「ヘッド博士の世界塔」における「ヘッド博士はこれで行くんだ!」の中心の曲だった。さらに「ヘッド博士」がトータル・アルバムである所以(ゆえん)、「ちょうど7曲目の『奈落のクイズマスター』にアルバム全体の最大のクライマックスの聴き所の山場が来るよう前もって効果的に各曲を配置」に関しては、小沢の以下のような発言がある

「だから、この曲(註─「奈落のクイズマスター」)がポンと一曲あってもわけわかんないだろうしさ。…これをちゃんと聞こえるようにするためには色んなファンクションが必要だからね。さっきの『ゴーイング・ゼロ』が説教的なすごい有言なのは、そのためでもあるしね。トータル・アルバムにしたのもそういう…」

4曲目の「ゴーイング・ゼロ」という曲がやたら説明過多の「説教的なすごい有言」なのも、後半の目玉曲「奈落のクイズマスター」に持っていくための前もっての計算の布石である。

さてアルバム1曲目は「ドルフィン・ソング」で、これもやたら説明臭い始まりだ。「ほんとのことが知りたいから嘘っぱちのなか旅に出る」といった内容の歌詞で、「これから始まるアルバム世界は、完全な嘘の虚構ですよ。しかし、その嘘っぱちのなかにほんとの真実がありますよ」としたアルバム世界観の紹介をまずはやる。また、この「ドルフィン・ソング」は「ビーチ・ボーイズ」(Beach・Boys)の「ペット・サウンズ」、「神のみぞ知る」の曲のイントロ・サンプリングというか、そのまま引用のパクりだ(笑)。昔、私は「ヘッド博士」のCDを購入して初めて聴いた時、「あれ、入れたCD間違えたかな」と一瞬思った。「ヘッド博士」を聴こうと思って再生したら「間違ってビーチ・ボーイズのペット・サウンズ?」という、まずはつかみでリスナーの笑いをとる。「アルバム冒頭の初っぱなからかます」あれは壮大なパロディの一発ギャグなわけで(たぶん)、とりあえず笑う。

そうした「ドルフィン・ソング」の「神のみぞ知る」ネタで冒頭から釣られて軽く笑って、次は2曲目「グルーヴ・チューブ」だ。これはアルバムに先駆けて先行で切られたシングルである。確かに、よく聴くと歌詞がいやらしい。曲中にヘンな喘(あえ)ぎ声もある。この曲のキャッチコピーは「フリッパーズ・ギターのセクシー・ダイナマイト」。それで「異常性欲が…」とか、フリッパーズの二人はテレビに出て堂々と言っていた(笑)。しかし、自分たちでそんなネタにしながらも「みんな今度の新曲は歌詞が、いやらしいとか何とか表面的なことばかりで結局、中身の音楽なんて誰も真面目に聴いちゃいないんだな」とした失望で投げやりな小沢の発言も当時はあった。フリッパーズの小沢と小山田は見た目はヘラヘラしていたけれど、音楽に関しては案外に真面目で傷つきやすい繊細な若者だった。

3曲目「アクアマリン」はフワフワした浮遊感あふれる実験的な曲だ。さらに4曲目の「ゴーイング・ゼロ」この曲は前述の通り、目玉の「奈落のクイズマスター」を意識して作られ、前もって配置されている。この曲については後に改めて詳しく述べよう。5曲目「スリープ・マシーン」は、おそらく曲タイトルはボリス・ヴィアン(Boris・Vian)「うたかたの日々」または別名邦題「日々の泡」からの引用だと思われる。続いて6曲目の「ウィニー・ザ・プー・マグカップ・コレクション」は轟音ギターが鳴るサイケな曲だ。全体に地味でおとなしい楽曲が多いアルバム「ヘッド博士」の中で比較的、元気で派手な曲である。よいのではないか。私は好きである。「人生って奴はウィニー・ザー・プーだらけのマグカップ・コレクション」。人生は独りよがりの熊のプーさんのマグカップ集め、皆がそんな独りよがりなコレクション収集に夢中になって、ふと気が付くと、いつの間にか私の人生終わってた(笑)。

そして、いよいよ傑作の名盤アルバム、フリッパーズ・ギター「ヘッド博士の世界塔」の最大の盛り上がりのクライマックスな7曲目「奈落のクイズマスター」が来る。

しかし、この続きは次回へ。