アメジローのつれづれ(集成)

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大学受験参考書を読む(35)中谷臣「世界史論述練習帳 new」

中谷臣「世界史論述練習帳new」(2009年)の良さは、大学入試の世界史論述に挑む際に場当たり的でない一貫したアプローチからの論述作成方法を具体的に教えてくれる所にある。すなわち「書き出す前の事前の構想メモ作成」と「問題の問いかけパターンに応じた論述の答え方想定」の二点教授が、この論述参考書の特に優れている所だ。

前者の「書き出す前の事前の構想メモ作成」とは、すぐに書き出さずに、まずは構想メモを作成し論述へ盛り込むべき内容を事前にまとめる一貫手法である。論述問題にて高得点を狙う場合、出題者が望んでいる大学側が受験生に書かせたがっている加点要素を決して書き漏(も)らすことなく、解答論述の中に効率的にどれだけ多く盛り込めるか、作問者の意図に沿った論述作成が高得点のカギとなる。加点要素の書き漏らしを出来る限り避け、論述の各文・各所にて着実に点数を確保して結果、高得点に繋(つな)げたい。しかし構想メモを作らず、いきなり書き出すと書き漏らしが出て失点を誘う。

例えば時代的変遷の推移を論述する場合、仮に8世紀から10世紀の推移に限定して述べるとして、8世紀と10世紀に該当の歴史事項は思いついて書き出せるが、たまたま9世紀に当たる事柄が穴になって思い浮かばない。これでは連続的な推移の論述にて明らかに書き漏れになり減点になるから、どうしても9世紀に関する歴史事項を無理矢理にでも探し出し書き入れ、推移論述に欠落の穴ができないようにする。そうした自身の作成論述を客観視し、書き漏らしをさせない工夫のためには、事前に構想メモを作っておかないと気付かないことであり、あらかじめの構想メモ作成は論述問題に臨む際には必須の作業である。

後者の「問題の問いかけパターンに応じた論述の答え方想定」は、論述問題には問いかけパターンがあり、それに即応した答え方が実はあるので、それら問われ方のパターンを知って、あらかじめ答え方を想定しておくことが重要だ。

例えば「違いを述べよ」パターンであれば、事前に構想メモで対照表を作って、観点項目別に「Aは××だが、Bは××」というように「AとB」の観点別の対比(コントラスト)が常に明確となるよう必ず二つの対のセットで一貫して書き抜かなければならない。よく「違い」パターンの問題で片方のAの事柄のみ熱心に書いて、それに対立照応するBの事柄に関し対比の意識が希薄で、それとなく漠然と述べている論述があるが、あれは厳密に「違い」を述べた論述になっていないので減点される。そうなると完答や高得点は難しくなる。

例えば「歴史的意義について述べよ」の問いかけパターンに対しては、絶対に細かで具体的な歴史事項を書いてはいけない。「歴史的意義」といった場合には、ある程度、抽象化した前の時代からの継承・断絶・飛躍、そして後の時代に及ぼした影響・役割の時系列前後の二つの要素を書き入れなければならない。「歴史的意義」パターンの論述にて、細かに詳しく具体的な歴史的事柄を書き込んで記述内容は正しく大変よく書けているのだけれど、設問の問いかけに適切に対応しておらず「歴史的意義」の抽象記述に徹しきれていないため結果0点だった、という悲劇な話は割合よく聞く。

この参考書のウリの一つは、世界史論述に取り組むにあたり、漠然と何となく書き出すのではなく、常に事前に構想メモを作らせ必ず内容を決めてから学生に論述させるの徹底指導で、決して場当たり的ではない、どんな論述問題に対しても常に同じ手法で対処する一貫した方法論の提示であり、そうすると前述のように事前に自分の考えが客観視でき検討できて欠落の書き漏らしミスをなくすことが出来る。だから、本書での入試論述の過去問を使った問題演習では、まずは「構想メモを作ってみよう」、そして構想メモが完成したら、それを文章化して「添削しよう」の二段階作業の手順を必ず踏む指導になっている。

大学入試の世界史論述過去問をいくらか解いてみての私の感触では、世界史論述にて完答に近い答案を作るには、出題者が作問の際に想定し受験生に書かせたがっている加点要素(論述の核や柱となる歴史事件、歴史人物、歴史概念の用語)を限られた字数論述の中に漏れなく盛り込み書き入れること、そして、それら歴史事項の繋(つな)がりの連結(並列羅列、因果関係、対立対照、抽象・具体など)を適切に処理しメリハリを付けた論述にして採点者に良い読後感の好印象を与えることだ。論理的つながりや連結を意識せず、歴史的事実や意義をダラダラと書き連ねると散漫な論述印象を与えてしまい、採点者の読後感は確実に悪くなる。あとは正確でない間違い記述やあいまい記述、誤字脱字をなくして減点を避けることである。東大の世界史大論述のような使用語句指定がある問題の場合には、出題者が論述に盛り込むべき歴史用語を事前に提示してくれているので、あとは語句同士の論理的つながりに主に注意を払ってメリハリをつけて一気に書き抜けばよい。少なくとも以上の点をクリアしたら、自然と出題者が想定している模範解答に果てしなく近い高得点が出る、ほぼ完答に近い論述答案になるはずだ。

そういった点からして本書巻末にある別冊付録「基本60字」に掲載の、論述の構想メモ作成の際に役立つ世界史内容の具体的まとめ(歴史事項定番の因果関係や対照図式などの網羅)も、良い読後感の好印象を採点者から引き出すメリハリをつけた論述記述のために有用である。

結局のところ、察するに本書は「この本は、わたしの添削の成果です。毎年、受験生の答案を1000から1500枚も添削しています。4月から直前の2月まで馬鹿馬鹿しいくらいたくさんの答案を添削してきました」と著者自ら紙面にて述べているように、著者が受験生の世界史論述答案の添削を日常的にかなりの大量枚数こなし、その際の自身の経験的な添削作業の手続きの手際(てぎわ)を参考書にまとめ、「その添削作業の逆操作を受験生にそのままやらせれば、学生は独力で大学入試の世界史論述に自然と対応できるようになる」とする著者の考えから成立している。

何はともあれ、まずは「構想メモを作ってみよう」の構想メモ作成と、問題の問いかけパターンに対応した答え方想定の一貫した方法論の確立が肝要である。特に前者の「論述答案記述に挑むに当たり、どうしたら事前にムラなく安定して精度の高い正解な構想メモを毎回作成できるか」が、大学入試世界史の論述にて常に高得点をたたき出し果てしなく完答に近づけるカギとなるに違いない。