アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(90)中谷臣「センター世界史B 各駅停車」

昨今、世界史の大学受験参考書で「これはさすがに名著で人々に広く読まれるべきだ」とは思うが、絶版品切れで入手困難なため古書価格が異常に高騰して、なかなか入手して読めないのは、山村良橘「世界史年代記憶法」(1976年)と大久間慶四郎「大学への世界史の要点」(1976年)と中谷臣「センター世界史B・各駅停車」(2006年)の三冊になろうか。

私が学生の頃(1980年代から90年代にかけて)、例えば大久間慶四郎「大学への世界史の要点」などは街の書店の店頭に普通に新刊本があって、比較的廉価(れんか)の定価で誰でも簡単に購入できた。それが今では大久間「大学への世界史の要点」はほぼ入手不可能、たまに古書で出ていても驚くほどの相当な高値が付いて取り引きされているである。

最近どうやら絶版の大学受験参考書が人気であるらしい。昔に定価で書店に並んでいた大学受験参考書が現在では絶版品切れの入手困難なために一時的に人気沸騰し、かなりの高額で取り引きされている、この現象。絶版・品切の入手困難な昔の大学受験参考書が投機の対象になって、それをせどりして高額転売したり、またそうした絶版参考書を「収集(コレクション)」と称して相当な金額にて買い集めたりするのは、正直よくないと私は思っているのだが。

さて今回の特集「大学受験参考書を読む」で取り上げるのは、中谷臣「センター世界史B・各駅停車」である。本書は先に挙げた山村良橘「世界史年代記憶法」、大久間慶四郎「大学への世界史の要点」と並んで現在では絶版品切れの入手困難なため、古書価格がなかなかの高額となっている。私は本書を書店店頭で新刊本の比較的廉価の定価で、以前に購入した。

著者の中谷臣については、中谷「世界史論述練習帳new」(2009年)らの著作があり、この人は元は駿台予備学校の世界史科に所属で世界史に広く深く知悉(ちしつ)していて、氏による運営の「世界史教室」のサイトを私は前からよく参照していた。「世界史教室」のサイトを連続して読んでいるとそれとなく分かるが、中谷臣は駿台世界史科在籍時に同僚であり、(おそらくは)当時の直属の上司であった世界史講師の大岡俊明の影響を受けて、中谷が大岡に心的に傾倒しているフシが私には感じられた。駿台世界史科の大岡俊明の講義を私は実際に受けたことはないが、それでも「大岡俊明の世界史講義が素晴らしい」の噂を昔から聞いて、大岡俊明のことは知っていた。ゆえに中谷臣を「大岡俊明に続く本格な世界史を教える駿台予備校の人」と捉えて一目置き、一時期中谷が執筆の世界史の大学受験参考書をよく読んでいた時期が私にはあった。

中谷臣「センター世界史B・各駅停車」は、センター試験の世界史対策に最適な良書である。なぜ書籍タイトルが「世界史・各駅停車」であるかといえば、本書は国別の各国史の構成で、まず古代から近現代までの中国史をやり、次にインド史の古代から近現代までをやって、さらに古代オリエント史や西アジア史をやり、続いて古代のギリシアとローマから、中世を経て近現代のヨーロッパ史に移り、さらにはロシア史とアメリカ史の古代から近現代までを一冊ですべてやる構成となっており、その際の中国史やヨーロッパ史やアメリカ史をそれぞれ鉄道路線に例えて、各路線の本線と支線に沿って乗車する、まさに「各駅停車」でセンター世界史の各国とあらゆる時代の各項目を全てつぶしていくと、最終目的地の「合格駅」に到着するという趣旨から、このタイトルは来ている。中国史やヨーロッパ史ら基本で主要な鉄道「本線」に加えて、さらにそれら本線から枝分かれして分岐する朝鮮史や東南アジア史、アフリカ史や北欧史の細かな「支線」にまで乗車し踏破して「各駅停車」で世界各地域の各時代の歴史に網羅で丁寧に触れている。しかも政治史のみならず、文化史(芸術、建築、学問、文学ら)も各地域の全時代をカバーする周到さである。

本書冒頭のまえがき(本論記述によれば「改札口」)での著者の口上によれば、センター世界史、一回の試験で出てくる世界史用語は約300語であり、本書は過去問20年分のセンター世界史(本試験と追試験)の分析を踏まえて、センター試験に出る世界史用語の98パーセント前後は、この参考書に掲載されているという。これを逆に言えば、本参考書一冊をやってさえおけば、センター試験で出る世界史用語の98パーセント前後は確実にカバーできるわけである。

特に難関国公立大学志望の現役受験生で、試験科目が多く、英語や数学ら主要教科に時間を割(さ)いて重点的に勉強したいけれども、他方で世界史や日本史の地歴科目も、私大対策ほどに詳しく掘り下げて学ぶ必要はないが、二次試験へ進むための足切り回避のためにセンター試験でそこそこの点数を確保しておきたい、短時間で手っ取り早く効率的にセンター世界史対策をやりたい受験生に本書は最適である。とりあえず本参考書一冊だけに傾注してやっておけば、最短時間の最少労力でセンター試験・世界史にて、そこそこの得点は確保できるだろう。この意味で中谷臣「センター世界史B・各駅停車」は、確かにセンター試験の世界史対策に最適な良書といえる。