アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(94)代々木ゼミナール編「基礎からわかる漢文」

1980年代から90年代にかけての昔の代々木ゼミナールは、たまたまの偶然だと思うけれども、なぜか漢文の有名講師が多く在籍していて、例えば多久弘一や中野清という人がいた。多久も中野も代ゼミで漢文教科の大学受験指導をやっていたけれど、もともと両人とも中国文学者として論文執筆や学術書上梓の研究実績があり、実力は本物の人達だった。古文も兼任して省略して教えている高校の漢文教師とは、彼らはやはり違っていたのである。

多久弘一は、当時は「多久の漢文王国」(1981年)、「多久の漢文公式110」(1988年)を始めとした漢文の書店売り参考書を数多く出していて、私は多久の書籍をそこまで熱心に購入し読んではいないが、昔は書店店頭の参考書コーナーで多久が執筆の漢文の受験参考書をよく見かけた。多久の参考書を読む限り、中国古典の知識が豊富で故事成語の成り立ち(エピソード)や古代中国の文学常識(古典教養)に関する話が面白かった。多久は当時ですでにかなりキャリアのあるベテランの漢文予備校講師で、この人は代ゼミ各校の教壇に立って漢文の受験指導もしていたが、代ゼミ本部での理事ないしは地方校の校長もやり、代ゼミは高宮一族の高宮学園の経営であったけれど、多久弘一は早くも80年代から高宮学園の経営幹部の一人であったと思う。

他方、中野清は「中野のガッツ漢文」(1987年)という書籍売りの大学受験参考書を出していた。「中野のガッツ漢文」は上下二巻にさらに「中野のガッツ漢文」副読の問題集も出ていたはずだ。「中野のガッツ漢文」での漢文指導は、漢文を中国語のように厳密に外国語の語法に従って読む、そうすると「なぜこのように送り仮名が付けて読めて、そのような書き下し文になるのか」漢文の仕組みが原理的に分かる、という中野による漢文読解アプローチである。氏からすれば今まであやふやで慣れや反復重視で「何となく」だった素読主義の漢文読解の従来教授に対する「反」(アンチ)の意識が強烈にあって、そのため漢文を「なぜそのように読むのか」論理的に原理から分かりたい受験生には中野清「ガッツ漢文」は昔からウケがよかった。

最近、孔子の「論語」を読み返す機会があって、久しぶりに漢文の大学受験参考書を購入し読んで問題演習もやってみた。代々木ゼミナール編「基礎からわかる漢文」(2017年)である。

これは親切で良い漢文の解説書兼問題集の参考書であると思う。「センター対策はこれで十分!0(ゼロ)から始める超基礎漢文!!」と表紙に大きくあるように、冒頭の「入門編」にて帰り点・送り仮名の読みの順序ルールから丁寧に教えてくれる。よって漢文の前知識が全くない初学の高1の新高校生でも、本書の指導解説に従い読み進めていけばすぐに漢文が出来るようになる。続く「基礎編」と「応用編」を経て本書を読了すればセンター試験レベルから、難関大を除いた一般の私大入試と国公立二次のそれまで大学入試の漢文対策は十分であろう。

それにしても代々木ゼミナール編「基礎からわかる漢文」が、かなりの親切良著であることに私としては、かつての漢文受験指導の多久弘一や中野清ら、古き良き代ゼミ漢文講師の先人たちの伝統の重さを感じずにはいられない。多久弘一、中野清の昔の漢文参考書を改めて読んでみたい思いに私は駆られた。