アメジローのつれづれ(集成)

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大学受験参考書を読む(95)三羽邦美「漢文ヤマのヤマ」

大学受験の漢文は、「白文」を出された時に返り点(レ点や一二点や上下点ら)をつけ送り仮名を加えて、「書き下し文」として正確に読めること。そして、さらにその書き下し文から意訳も含めて、分かりやすく言葉を補って適切な「現代語訳」ができること。これら「白文→書き下し文→現代語訳」の変換が自在にこなせれば漢文の試験は毎回ほぼ完答で、いわゆる「漢文ができる」ということになる。それでセンター試験対策は万全であろうし、その他、私大入試や国公立二次の漢文試験にも対応できるであろう。

このように「漢文ができるようになる」=「白文→書き下し文→現代語訳」の変換が自在にこなせるためには、以下の2つ操作が必須と思われる。

(1)漢文は「主語(人物)+述語(動詞、形容詞)+目的語(対象)+副詞(目的、場所、時間、起点、受身、比較など)」の一文構造が基本なので、この語順に従って白文であっても文法分析的に把握できる。

(2)再読文字や句型(二重否定、反語、受身、使役、仮定など)の特殊な読み方と訳し方を知った上で、古典文法の規則に従って白文であっても適切に送り仮名をつけることができる。

(1)については、ただ漠然と漢字を読むのではなくて、「主語+述語…」の順番を追跡しながら漢文を文法的に構造的に読むことが重要である。また「主語+述語+目的語…」の以下に続く「副詞(目的、場所、時間、起点、受身、比較など)」には述語以下の目的語と混同しないように置き字(「於」「干」「乎」など)が置かれるのが通常であるし、主語や動詞や目的語を修飾する助詞・助動詞に当たる語(「之」─所有格の「の」、「自」「従」─起点をあらわす「より」、「与」─並列をあらわす「と」など)もある。これらは英語で言えば前置詞に相当する。つまりは漢文も英文と同様に「S+V+O+M(前置詞+名詞)」の構造で基本読めばよいわけである。

(2)については、述語に当たる動詞や形容詞に適切な日本語古文の活用(未然・連用・終止・連体・已然・命令)と、古文の助動詞の活用形(打消の「ず」「なし」や受身の「る」「らる」や使役の「しむ」など)を適時、自身で補って読めればよい。

これらは漢文読解のための必須の基本とはいえ、(1)は英文解釈の英文法の読解とほぼ同じであるし、(2)はそのまま古文の文法知識の流用である。ということは漢文に関し、ことさら新たに漢文のための勉強をゼロから新規に始めなくとも、英文法の知識があり英語を文法的に読めて、かつ古文の文法知識もあり日本語の古文を読める者は、原理的に漢文も難なく読めることになる。

このことから、例えば新入学の高校一年生でまだ英文法と古典文法を習いたてで長く学んでおらず、習熟していない学生は漢文も同様に苦手で読めないといえる。逆に言えば、英文法知識があり、ある程度英語が読め、かつ古典文法の知識もあって古文が読める学生は、やがて漢文もすぐ読めるようになる。

私の高校時代の経験からしても、英文解釈と古文読解がある程度できた時点で、大した苦労もなく自然と漢文が読めるようになっていた。漢文の受験対策にて、「あまり早い時期から熱心にやらなくてよい。漢文は高3の春から夏にかけて取り掛かり遅く、その時点から本格的に受験勉強を始めても十分に入試に間に合う。センター試験の漢文にて完答に近い状態にまですぐ持っていける」云々の受験勉強アドバイスが昔からよくされているのは、この「英文法の知識があり、かつ古文の文法知識もあれば、原理的に漢文も難なく読める。なぜなら漢文は、英文法と古典文法との折衷で同原理のものだから」の点に由来している。漢文が出来て漢文で高得点を確保するためには、それ以前に英文法と古典文法、英語と古文の両科目をじっくり勉強しておくべきである。

私が高校生で受験生の時代にはまだなかったが、近年では漢文の受験参考書といえば、東進ハイスクールの三羽邦美「漢文ヤマのヤマ・共通テスト対応版」(2020年)が定番で評判がよく、旧版から多くの読者を得て広く読まれているようである。