アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(96)和角仁「 魔法のグリデン解釈」

最近の人は知らないかもしれないが、以前に大学受験古文の古文指導で、和角仁(わずみ・ひとし)の「グリデン古文」というのがあった。「驚異のグリデン解法」(1987年)、「魔法のグリデン解釈」(1990年)などの和角仁の古文の大学受験参考書が昔は多く出ていた。「グリデン」とは聞き慣れない新奇な言葉である。「グルテン・フリー」の「グルテン(小麦から生成されるタンパク質合成物)」ではない。グリデンである。この「グリデン」とは一体何なのか!?

「グリデン」とは、どうやら古文の予備校講師である和角仁に学生から付けられた和角のニックネームであるらしい。和角仁は出講の早稲田ゼミナールにてゼミの生徒から「グリデン先生」の愛称で親しまれ人気であるという。またこの人は予備校で大学受験対策の古文を教える以外に、前から歌舞伎や日本舞踊の研究で知られ、演芸評論家として活動する人でもあった。事実、和角仁には歌舞伎と日本舞踊に関する研究著作が多数ある。

和角仁は1980年代には予備校の早稲田ゼミナールに出講しており、和角が執筆の全国書店売りの古文参考書が多くあった。そのうちの一冊、和角仁「魔法のグリデン解釈」を読むと、氏が看板にしている「グリデン古文」の内容は主に以下の3つのものからなっていることが分かる。

(1)通常、古文の教師が言葉で長々と解説する古典文法の概要を、数学の公式のように一目で分かる公式ルールの図式化で簡潔に指し示し教授する。

(2)古文を学んで習熟してくればやがて誰もが気づき分かってくるような当たり前の古文解釈のコツを、あらかじめ要領よくまとめ手っ取り早く教えてくれる。

(3)問題文を読んで解釈し内容を理解していなくても、記号選択問題の選択肢を事務的に見ただけでたちまち解答がわかってしまう、現代文の有坂誠人「例の方法」の古文バージョンのような裏ワザも教えてくれる。

(1)について、例えば古文文法の品種分解で定番の「なむ」の識別に関し、長々と言葉で文法事項を説明するのではなく、「『なむ』の上の語を見て未然形(伸ばして読んでア行)ならば終助詞の『なむ』、連用形(伸ばして読んでイ形)なら、完了の助動詞『ぬ』の未然形+推量の助動詞『む』と即に判断しろ」というような指導を公式ルール化で簡潔に示している。その他、「を─み」の「××が─なので」の理由を表す主語・述語関係がある構文の図示解説など、その手の「グリデン古文の公式・構文」がいくつも連続で挙げられ、まとめられている。

(2)については、例えば「助動詞『る・らる』の解釈では上を見て『思・嘆・忍・心・泣』の言葉があれば、自発の意味で訳せ」とするような解釈指南である。また「『道』という字が出てきたら、『仏道』か『和歌の道』か『書道』の三種類の候補の中から現代語訳を選択せよ」や、「『あり』と『なし』がセットになって一緒に連続して出てきたら『生きている』『死んでいる』と必ず訳せ」というような古文読解に際しての実用的なアドバイスがいくつもある。これらは時間をかけ継続して古文を学んで習熟してくれば、やがて誰もが気づいて分かるような当たり前の事柄である。しかし、こうした古文解釈のコツをあらかじめ要領よくまとめて手っ取り早く教えてくれるので短期間での古文の学習効果が見込める。

(3)に関しては、何だかあやしい(笑)、現代文の有坂誠人「例の方法」の古文バージョンのような裏ワザも和角仁「驚異のグリデン古文」には満載である。例えば「現代語訳の解釈として正しいものを選べ」の設問があった場合、本文中の傍線部を解釈する以前に選択肢だけ見て最終的に肯定の意味か否定の意味か、各選択肢の内容だけ吟味する。その際、四択のうち三つの選択肢が肯定の意味で、しかし一つだけ否定の意味のものがあれば、その一つだけの否定の意味の選択肢が正解であるとする、問題文を読まなくても即に解ける「グリデン解釈の魔法」だとか。

その他にも、「難しくて手がつけられないような『解釈』が出たら、『わかりやすい語』『わかりやすい表現』を使って訳している選択肢を選んで『正解』とせよ。(基準は小学5年生。すなわち、小学5年生がわからないような語や表現を使っているものは『正解』ではない)」というのもある。これについては、この「魔法のグリデン解釈」披露の直後に入試過去問の例題があって、選択肢中の「虚構」「作為」「逆説的」などの語は、著者の和角仁にいわせれば「小学5年生がわからないような語や表現」に該当する(らしい)ので、これらの語句を用いている選択肢は「正解ではない」と判断でき、消去法で正解がすぐに分かると和角は力説するのであった。

和角仁の「驚異のグリデン解法」「魔法のグリデン解釈」に関し、この人は大学受験古文の案外、当たり前で常識的な学習事項をして、「魔法のグリデン解釈、グリデン先生がキミを『古典解釈』の神様にしてあげよう」とか、「グリデン解法、『古典文法』は『文法10大問題』だけで勝負!」などと毎回大げさに煽(あお)るので、古文が普通に出来る現役の大学受験生や、社会人である程度、古文を知って古文が読める人には、和角仁の「グリデン古文」は正直、読んで疲れる。今更ながら常識的に考えて、古文の受験勉強で「魔法」とか、そんな怪しい奇跡的なことなどあるわけないだろう(苦笑)。

だが、逆に相当に古文が苦手で入試当日まで時間がなく、古文教科での苦手克服・一発逆転のために最小限の最短学習で最大限の成績アップ効果を狙って古文の必殺の裏ワザをノドから手が出るほど欲している学生には、和角仁の「グリデン古文」は衝撃的で、たいそう魅力的なのかもしれないが。

和角仁は主に1980年代から90年代の、高校生の現役受験生と浪人生が多数いて、各予備校が多くの受験生を取り合うような予備校文化が絶好調の時の、いわゆる「予備校バブル」の時代の人なので、当時の時代を反映して予備校講師も自身の担当で短時間で締め切り講座を連発させたり、相当数の生徒を集め大教室で盛大に講義をやったり、全国書店売の大学受験参考書を出し同時にラジオ講座も担当したり、時にテレビのメディアにも芸能人のように露出して自身を「超絶人気のカリスマ予備校講師」として売り出そうとするような、そういった浮(うわ)ついた時代の雰囲気も氏の「グリデン古文」の大学受験参考書から今となっては正直、感じられないこともない。

またこの人は予備校で大学受験対策の古文を教える以外に前から歌舞伎や日本舞踊の研究で知られ、演芸評論家として活動する人でもあったので、舞台上の花形役者よろしく、自身が主役で目立って受験生からの喝采(かっさい)を浴びたい目立ちたがりな個人資質も、古文の予備校講師である「グリデン先生」の和角仁に過分にあるのでは、とも思われる。