アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

東京スカパラダイスオーケストラ大百科(13)「Gunslingers」(加藤隆志)

「東京スカパラダイスオーケストラ」の「ガスリンガーズ」(銃爪を引く男達)は、ライヴ盤の好盤だ。これはアルバム「Full-Tension・Beaters」を発表後に精力的にやったライヴをその都度、録音で記録保存してメンバーとスタッフで共有し後日、ベストな演奏を選んで1枚のライヴ・アルバムにまとめたものである。だからツアー中に何回も同じ曲を連日、繰り返しやる中での渾身(こんしん)のベストなテイクがギッシリ詰まっていて、「当時のスカパラの最良を知る必聴なライヴ盤」といえるのではないか。

特にヨーロッパにツアーに行って「スキャラバン」や「スカ・ミー・クレイジー」を普通に激しくやる。それからスカパラの面々が本格なスカやラテンぽい、テクニックがいる堅実な曲も手堅く演奏する。すると今までスカパラを知らない現地のヨーロッパの客から、「こいつら昨今のスカコア・バンドみたいにただ単にハードコアで勢いあるだけじゃなくて、きちんとしたスカな曲もちゃんと上手にやれるだ」と意外な反応をされる。スカパラのメンバーからしたら「俺たちゃ勢いだけじゃなくテクもあるよ。色々なパターンの曲を自在にやれるよ」で、まさに「してやったり」なのだと思う。しかも毎回のライヴごとにセトリの曲目を変えて、バンドへの負担を強めて自己ハードルを高く設定している。

そういったわけで、このライヴ・アルバムでは「フィルムメイカーズ・ブリード・頂上決戦」や「スキャラバン」の激しい曲もよいけれど、切れ味鋭くじっくり聴けるラテン調の「マンテカ」とダブ仕様の「いつかどこかで」を私は激しくお薦めしたい。

加藤隆志さんのことなど。ギター担当。ギターの加藤隆志は、アルバム「Arkestra」ツアーの時、サポートで「エルマロ」(El-Malo)の會田茂一とツイン・ギターでスカパラのステージに立っていたのを見たのが最初で、もともとは「繊細でナイーヴなニュー・ウェーヴ系のギタリスト」と私は勝手に思っていた。しかし、後にスカパラに正式加入して正規のメンバーになって改めて見たら、加藤隆志は柳屋のマット・ワックスで髪の毛をツンツンに立てたり、はたまた長髪にしたりするようなワイルドでハジけたロカビリーでロックなギタリストにいつの間にか変わっていた(笑)。

実際、スカをやるバンドのギタリストは大変だと思う。地味な裏打ちを刻むのが主だから。またギターソロが曲間にあっても、スカの楽曲のギターは非常に音がスカスカで軽い。ヘビメタやハードロックのような派手で重厚なギター音は出せないし、もともとスカの音楽ではギターは主役ではない。例えばイギリスの2トーン・スカの「スペシャルズ」(Specials)を聴いていても、スゴいギターの音が乾いていて軽い。ギタリストの最大の見せ場のギターソロでも音がスカスカだ。スカパラでいえば「Down・Beat・Stomp」のギターソロでのあの乾いた軽さが、ちょうどスカ楽曲のギターソロの標準仕様のような気がする。あの曲は一応スカコアぽいが、やはり加藤隆志のギターソロのギターが軽い。ギターの音がスカスカだ。もともとスカは南国ジャマイカの音楽だから、エレキのギターをアンプにつなげて音量最大にして音歪ませてギター早弾きするとか、そんなギタリストの華麗なテクニックの様式美は必要ない。南国の音楽はフリーで自由で牧歌的で適度に脱力していて、あまりエレキなギターにこだわらない。だから、スカのギターもハードロックやヘビメタのギターの対極にあって非常に音が軽い。

私は音楽ジャンル全般のことをあまりよく知らないが、スカはブラスバンドとジャズがベースな音楽だと思う。ブラスバンドのバンド編成でもジャズのトリオでも金管楽器やピアノが主旋を引っ張る主で、リード・ギターなど不在だから。かたや絶対に欠かせないのはリズム隊の太鼓やドラムやベースであり、特にジャズではベースがジャズ・セッションの基本でベースの低音がないと困る。その代わり同じ弦楽器でも派手なエレキのリード・ギターはジャズには要らない。

現代の私達は商業ロックにハマっていて、今のロックではギタリストが、やたらもてはやされてギター人気が異常すぎる。音楽が好きな若者が集まると「これまでで一番最高で偉大なロック・ギタリストは誰か」自然と必ず一度は出る話題だ。「最高で偉大なギタリストといえば、ジミ・ヘンドリックス(Jimi・Hendrix)だ。いやエリック・クラプトン(Eric・Clapton)だ。はたまたCharの竹中尚人だ。いやいや渡辺香津美でしょう」など(笑)。それで皆が学生の時にギターを手に入れ、練習してコードを覚えて「ギター小僧」になったりする。よくよく考えてみると「ギター小僧」増殖のギター人気も、曲演奏やバンドの中でギタリストが主役で中心なのも現代ロックの中での非常に限られた例外的現象であって、ブラスバンドやジャズの編成では、もともとギターは要らないし、スカでもギタリストはあまり前に出てこない。普段は裏打ちばかり刻んで、ギターソロがあってもギターの音は割合軽くて意外と地味でホーン隊の金管楽器に主旋律の主役を取られる立場だ。

このような普通のロックバンドとは違い、スカをやるバンド内でのギターの地味さに由来しているわけではないのだろうけれど、スカパラのギタリストはメンバーチェンジを繰り返してよく変わる。初代ギターのMARC林、2代目ギターの寺師徹、そして3代目で現在のギタリストの加藤隆志である。しかしながら、「加藤さんはスカをやるバンドの宿命(?)たる音が軽い裏打ちばかりのギタリストの制約を見事にクリアした」と感心したときがあった。それは奈良東大寺の野外ステージで「White・Light」をやったのを観たときだ。ギターの加藤が、まさに「一人主役」でスカパラ・ホーンズの前に立ってホーン隊を統率指揮して、それからホーンのメンバーをバックに従えステージ中央で派手にギターを弾くのを見たとき、「あーこの人は今この瞬間、スカ・バンドのギタリストのくびきを外したな。スカの地味なギター制約ハードルの壁を軽々と越えたな」と私は思った。

加藤隆志のギターで好きなのは「One・Eyed・Cobra」の最初のメロだ。「モンスター・ロック」のギターも良い。曲の始まりでザクッと刻む弾き始めのギターの入り方や、中途ギターかき鳴らしのギターソロでパニックムード演出して高めるところも好みである。「モンスター・ロック」は良曲の名曲なので、特にギターのパートはスカパラ歴代ギタリストの誰がやってもカッコよい。あとは「Tongue・Of・Fire」にての「ベンチャーズ」(Ventures)ばりのテケテケと鳴る、彼のギターも印象深い。