アメジローのつれづれ(集成)

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大学受験参考書を読む(53)渡辺久夫「親切な物理」

渡辺久夫「親切な物理」上下巻(2003年)は、1959年の初版にて後に増刷と改訂を順調に重ねていたが、一時的に絶版・品切となり、だがあまりにも良著で再販復刊を望む声が多くあったため、近年めでたく復刻・復刊を果たした物理の大学受験参考書である。

私は不覚にも本参考書の存在を学生時代に知らなかった。近年、「親切な物理」の復刊を知り入手して読んで非常に驚いた。大学受験の物理参考書で、これほどまでに詳しく丁寧で、別の言葉で言えば、ある意味クドい(笑)、タイトル通りの「親切な」物理参考書を本書以外で読んだことがなかったから。

だが、ここで以下のことを早急に付け加えておきたい。本書「親切な物理」を名著で必読な参考書として、物理の得意な大学受験生や現に今、大学で物理学を専攻して本格的に物理を学んでいる大学生や大学院生の前で絶賛したり推薦したりすると確実に笑われて内心馬鹿にされるので注意が必要だ。つまりは本参考書は、大学や研究者レベルで日々物理を使いこなして本質的に物理学を理解している海千山千の、いわゆる「物理屋さん」が書いた書籍ではなくて、あくまで高校生を相手に物理の分かりやすい授業教授を常に考え工夫し試行錯誤していた「学校の物理の先生」が執筆したものであるからだ。このことは本書の著者である渡辺久夫の経歴を見ると即座に分かる。渡辺久夫は京都学芸大学、現在の京都教育大学を卒業、その後、華頂短期大学らの教員を歴任した人であって、本書での著者紹介にあるように「物理の教育方法の研究に一途に進まれ、身をもって学生や生徒の啓発指導に当たってこられた方」であった。

よって、渡辺久夫「親切な物理」は理系学部の物理学専攻分野に進学して将来も物理を究めようとする高校生や受験生であるよりは、物理が苦手で、しかしどうしても入試科目に物理があり、それを選択せざるをえない「逃げ場のない物理が苦手な高校生や受験生向け」の手取り足取りの親切指導な文字通りの「親切な物理」である。この渡辺「親切な物理」を読んでも「物理がさっぱり分からない」ほどの人なら、もう物理の科目選択と学習は諦めた方がよい。逆に、もともと物理が得意であったり、大人になってからも物理学の研究や物理知識を生かした分野の職種を志望する学生は、本参考書ではなくて、例えば駿台文庫の坂間勇「大学入試必修物理」上下(1979、1980年)か山本義隆「新・物理入門」(2004年)辺りをやっておくべきである。

高校の時に理科科目では物理と化学を選択していたが、中途で文系学部志望に変えた私のような、もともと物理があまり得意ではない学生向けの「親切な物理」であるように思う。私は、大学進学後や学校卒業後にその都度、趣味で大学入試の物理問題を解いていたけれども、坂間勇や山本義隆レベルの大学受験物理の参考書は正直、ハードルが高く完全理解習得には程遠いものがあった(苦笑)。

渡辺「親切な物理」は上下の全2巻で、上巻は力学、物性、熱 、下巻は波動、音波、光波、電磁気、原子の構成になっている。確かに「親切」であるが、あまりにクドいくらいの説明過多で時に親切すぎて、その分、解説も演習問題もページ数は多い。本書の上下巻を最初から終わりまで全部やるのには、かなりの労力と相当な時間がかかるに違いない。だが、初学者や物理が苦手な人が本参考書に本気で臨めば確実に物理の成績は上昇して、とりあえず大学受験科目の物理は入試突破で克服できると思う。そういった意味では渡辺久夫「親切な物理」はあえて名著ではないが、かなりの良心的な良著といえる。