アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

大学受験参考書を読む(86)富田一彦「富田の入試英文法・Ver1・解法の基礎」

私が高校生で大学受験生だった時には、英語の英文法は何に向かって勉強するかといえば、センター試験英語の英文法・語法の空所補充の4択問題をミスなくほぼ完答で、どれだけ短時間で早く解けるかに全力を傾けていたし、そのことにしか興味がなかった。センター試験の英語は難度はそれほどでなくても、問題数が多く常に時間との戦いである。最初から順番に解いていって、発音・アクセント、会話文、文法・語法の四択問題らを正確にできるだけ短時間で素早く解いて、残りの時間を図表・グラフ・地図を絡めた説明文と物語文と評論文の後半3題の英文解釈の長文読解にどれだけ時間的余裕を持って取り組めるかの時間配分の勝負である、センター試験の英語は。それにセンターのレベルの英文法・語法の空欄補充の四択を完答できる実力があれば、私大入試の個々の文法問題も、難関私大と国公立二次のそれを除いてだいたい対応できる。だから、私が受験生の頃はセンター英語の文法問題の過去問・類似問題をよく解いていた。

同級生で旺文社の宮川幸久・綿貫陽「ロイヤル英文法・改訂版」(2000年)の昔の版を学校に持ってきて自学で最初から読んで英文法の勉強を本格的にやっている人がいたが、大学受験レベルの英文法では「ロイヤル英文法」のような細かい英文法をそこまで詳しくやるのはむしろ弊害で、センターレベルの英文法問題が解ける程度の実践の力を、どんどん問題演習をやって身に付けていくほうが実用的だと思える。大学受験英語の英文法で、そこまで詳しく細かくやたら掘り下げて英文法にハマってはいけない。

当時、高校の必携の副教材で買わされた桐原書店の上垣暁雄「大学入試・英語頻出問題総演習・即戦ゼミ」(1990年)の問題集を私はよくやっていた。桐原の「大学入試・英語頻出問題総演習・即戦ゼミ」を通して文法・語法問題を何問も続けて次々に解いていると、だいたいよく出て毎回定番でよく聞かれる頻出の文法事項や語法ルールがおのずと分かり、要領がつかめて「完答で、しかも最短時間で!」の目標に次第に近づいていくものである。そうした自身の目に見えて徐々に実感できる、英文法知識のスキルアップの学習過程が楽しかった。だから、大学受験英語には英文解釈や英文法や英作文やリスニングら実は様々な分野があるけれど、英文法の勉強は受験英語の中で私は好きなほうだった。

富田一彦「富田の入試英文法・Ver1・解法の基礎」(1995年)が発売された時、私はすでに大学入試を終えて大学生であったけれど、本書を購入して問題を解き解説を読んで非常に感心した。本書には英文法の四択の空所補充問題が各文法項目の分野別に225問収録されている。教科書・センターレベルの基本から難関私大の過去問と思われる、四択の穴埋め問題をひたすら演習解説するものである。ここに収録の英文法問題が解ければ、現行の大学入試の英語試験にほぼ間違いなく対応できるだろう。

当時、私が住んでいる街には代々木ゼミナールら全国展開予備校の支店直営校舎はなくて、私が高校生だった1990年代初頭の昔はインターネット環境も皆無で今のように東京の有名人気講師の動画配信や、彼らの授業を収録した映像ビデオを個別ブースで視聴する形態の学習塾もまだなかった。つまりは「大学受験勉強の地域格差」があからさまにある時代で、しかしそういった東京以外の地方に在住の高校生の私らでも「代ゼミの富田一彦や西谷昇二の英語講義はスゴイらしい」の噂は聞いていたし、「特に彼らが執筆編集の単科ゼミや夏期・冬季講習のテキスト巻末にある自習用のオリジナル付録の解説教材が素晴らしい」という評判も耳に入って知っていた。それで、そうした東京の代ゼミの人気講師のテキストを手に入れ読んで勉強したいとずっと思っていたのだけれど、その願いはかなわなかった。

ところが、1995年に全国書店一般販売の大学受験参考書で代々木ライブラリーから「富田の入試英文法・Ver1・解法の基礎」が発売され即購入して読んで、とにかく私は感動した。おそらく本書は、富田一彦が執筆編集の単科ゼミや夏期・冬季講習のテキスト巻末にある自習用のオリジナル付録の教材をそのまま書店売り参考書にしたものと思われる。

本参考書が良いのは、何よりも「なぜそうなるか」「なぜこの問題の空欄はこの選択肢を選ぶべきか」の文法上の合理的な理由を一貫して最初から最後まで丁寧に解説し教えてくれる所だ。幼少の頃から英語の言語を聞いて話して書いていない、ネイティヴではない英語が第二言語の私らのような中学生になってやっと外国語の英語を学び始める者には、英語は文法理論から理屈で考えてやらないと理解できないし使えない。日本語なら幼少時から絶えず日常的に使っているので何ら理論がなくても、感覚や雰囲気で自然に分かり、聞けるし話せるし書ける。事実、多くの日本人は特に日本語の文法教科書を読んで日本語の理論を知らなくても、日本語を極め自然に自在に使えるのである。日本人の幼児・子どもで日本語を使うのに、わざわざ日本語テキストで国文法を学習する者などいない。ネイティヴであれば理論の理屈抜きに自然に苦もなく、やがて言語習得はできる。しかし、非ネイティヴの学び始めが遅い第二外国語学習の人は、どうしても感覚や雰囲気の自然習得以外の所で、理論の理屈から詰めていちいち文法項目を潰(つぶ)していきながら学んで結果、外国語をマスターする以外に道はないのである、誠に残酷なことに。

その際の「非ネイティヴの学び始めが遅い第二外国語学習の人は、どうしても感覚や雰囲気の自然取得以外の所で、理論の理屈から詰めていく」の内実は、より具体的に言って、(1)最低限のパターン(公式ルール化)の把握をして文法知識を有機的に使えるよう構築しておく、(2)「なぜそうなるのか」あまり深入りしない程度の理論・理屈で詰めて本質理解しておく、の2つの方法が主であると思う。すなわち、この(1)と(2)を網羅的にできるだけ効率的にやることが「使える実用的な英文法学習」の内容なのであり、それらのことを「富田の入試英文法・Ver1・解法の基礎」では著者の富田一彦が、かなり意識的・重点的に強力にやっている。だから私は、本参考書を購入し問題を解き解説を読んだ際、非常に感心したのだった。

代々木ライブラリー「富田の入試英文法・Ver1・解法の基礎」では特に「第五章・時制と法」の解説部分が優れており、この部分は必読である。「日本人が英語を学ぶ際、総じて英語の時制に弱い」と昔からよく言われる。現在形と現在進行形の違い、過去形と現在完了形の相違は私ら日本人にはなかなか理解しにくい。例えば「過去形と現在完了形の相違」に関し、空欄にどちらを入れるか問われた場合、「現在完了には完了と経験と継続の3つの用法があるから」とか、一度日本語に訳し文章の意味から考えて選択すると必ず失敗する。ある空欄に過去形か現在完了形のどちらが適するかには、日本語訳の意味で決まるのではない。ましてや前後の文脈や書き手のその時の感情・心理などでもない。そのような漠然とした曖昧(あいまい)なものではなく、過去形でなく現在完了形になる時には必ず現在完了にするべき目印(サイン)の語句が英文中にあって、それを根拠に「この場合は単なる過去形ではなくて現在完了形の文になる」の判断がなされるのである。そういった英文法理論の根本で本質的なことを、富田一彦「富田の入試英文法・Ver1・解法の基礎」は実に丁寧に親切に教えてくれる。