アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

再読 横溝正史(49)「恐ろしき四月馬鹿」

昔の角川書店は「横溝正史全集」の完全版を期して、横溝が過去に執筆した作品は傍流なマイナー作、あからさまな破綻作・失敗作、他人名義で発表した代筆など、どんなものでも漏(も)れなく片っ端から文庫にして出していたので、横溝のデビュー作らその周辺の短編群を所収した初期短編集も数冊、編(あ)んでいた。それが角川文庫の横溝正史「恐ろしき四月馬鹿」(1977年)と「山名耕作の不思議な生活」(1977年)である。「恐ろしき四月馬鹿」は大正時代の横溝短編を、「山名耕作の不思議な生活」は戦前昭和の横溝短編をそれぞれ収録している。

横溝正史初期短編集の一冊目にあたる「恐ろしき四月馬鹿」である。本書タイトルは横溝正史のデビュー作「恐ろしき四月馬鹿」から来ている。書誌情報的により正確に詳細に言えば、最初に大正期と戦前昭和の横溝の初期短編を一挙に集めた「恐ろしき四月馬鹿」のハードカバーの単行本(1976年)が角川書店から出され、後にそれを文庫本にする際に単行本のままでは収録短編が多すぎて総ページ数多く文庫本一冊に収録できないから、ハードカバー版の「恐ろしき四月馬鹿」の内容を二冊に分け、単行本前半の大正時代の短編群を文庫版「恐ろしき四月馬鹿」に新たに編み直し、同様に単行本後半の戦前昭和の短編群を文庫本「山名耕作の不思議な生活」として新しく編んで既出の一冊の単行本を二冊の文庫に分冊したのであった。昔の角川書店は横溝正史の作品が新たに発掘されたりすると、最初から角川文庫には入れず、まずは単行本かカドカワ・ノベルズで一度世に出してから後に再度、角川文庫に収録する手順をとっていたようである。

横溝「恐ろしき四月馬鹿」の文庫版に収録の諸短編は全14作、巻頭の「恐ろしき四月馬鹿」は横溝正史のデビュー作で、雑誌「新青年」の懸賞小説に応募し入選して雑誌掲載されたものだ。この時、横溝正史は弱冠十八歳、実家の薬局を継ぐため大阪薬学専門学校に入学した頃である。横溝デビューの二年後に江戸川乱歩もデビューし、乱歩の文壇登場となる。

「恐ろしき四月馬鹿」(1922年)はショートコントのような微妙な読み味がする。よくテレビのバラエティ番組でどっきり企画を相手に仕掛ける仕掛け人の方が、実はどっきりのターゲットで、そのことを知らずに仕掛け人が、最後にまんまとだまされてしまう「逆どっきり」のような話である。内容は凡庸(ぼんよう)だが、若き日の10代の横溝のタイトル付けのセンスが良くて、「恐ろしき四月馬鹿」と書いて「四月馬鹿」に「エイプリル・フール」の読み仮名を付けて読ませる趣向など、この先を大いに期待させる前途有望な新人のデビュー作といえるのではないか。

その他、収録の横溝の大正期の初期短編は、私は読んでもすぐに忘れてしまう(笑)。おそらくは熱烈な横溝正史ファンならば横溝の作品はコンプリートで所有して全作品を読みたいと思うであろうから、この横溝正史「恐ろしき四月馬鹿」の文庫本も当時は横溝ブームの中、かなり売れたのだろうか。

私は「再読・横溝正史」の記事を書いて人並みに横溝の探偵小説を読んではいるけれど、実はそこまで「熱烈な横溝正史ファン」というわけでもないので、デビュー直後のまだ筆が定まらない横溝の初期短編集は読んで正直ツラい感じもする。