アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

江戸川乱歩 礼賛(9)光文社文庫「江戸川乱歩全集」

江戸川乱歩に関し、皆さんは小学生の頃にポプラ社の「少年探偵団」シリーズでジュヴナイル(少年少女向け読み物)の乱歩に親しみ、それからしばらく空白があり、大人になって再び江戸川乱歩を読み返して再評価する「乱歩返り」(?)のパターンが、おそらく多いかと思うが、私の場合は違った。小学生の時に江戸川乱歩の本を読んだことが一度もなく、何しろ子どもの頃には全般に本を読んだ経験がない、読書習慣が皆無な小学生だったので中学生も同様で、やっと高校生になって人並みに読書するようになって初めて乱歩の探偵小説を読み度肝を抜かれた。江戸川乱歩の面白さに驚いた。

ちょうどその頃、「筋肉少女隊」の大槻ケンヂが、サブカルチャー雑誌「宝島」や深夜ラジオ「オールナイト・ニッポン」で「江戸川乱歩は面白い」と杉作J太郎らと異常に盛り上がっていた時期があった。もちろん、本格推理の探偵小説としてよく出来ていて普通に読んで「乱歩は面白い」というのもあるし、他方で特に長編乱歩での辻褄が合わなくて、かなりの確率で毎回話が破綻する、毎度ながらの乱歩のグタグタで駄目なツッコミ所満載の無理ある小説展開の筆さばきに「乱歩は面白い」と江戸川乱歩をネタにして笑い飛ばす所もあって。

それでオーケンたちが盛り上がって「乱歩は面白い」とか言うから、「だったら江戸川乱歩、私も読んでみようかな」と思って書店に乱歩の本を探しに行くわけだ。なぜか今でも鮮明に覚えてるのだが、それが1992年の春だった。「江戸川乱歩は世間に名の知れた有名作家だから普通にたくさん乱歩の書籍は新刊であるだろう」と思って書店に行ったら専門書も多く扱っている大フロアの大型店舗の書店なのに、これが江戸川乱歩の本があまりない。あって数冊、92年春の時点で絶版・品切になっていない入手可能な江戸川乱歩の書籍といえば、新潮文庫「江戸川乱歩傑作選」(1960年)と創元推理文庫「日本探偵小説全集2・江戸川乱歩集」(1984年)の巻と、あと創元推理文庫から単発で「孤島の鬼」(1987年)が出ていたくらい。「江戸川乱歩は探偵小説ジャンルにて有名作家なはずなのに新刊本が出てないし、在庫本も少ないのか」。相当に意外で肩透かしを食らった思い出がある。

そういった1990年代初めの状況と比べれば、中途で世間の「江戸川乱歩ブーム」を何度か経て現在では乱歩の作品は新刊本でたくさん出ているし、書店購入して即で気軽に江戸川乱歩を楽しめる「乱歩読書環境」は非常に充実して明らかに整っている。驚くべき進歩だ。

やはり、近年の光文社文庫「江戸川乱歩全集」全三十巻(2003─16年)の完結が大きかったと思う。あれが乱歩を読む人にとっての定番の決定打となった。光文社の文庫全集は重厚でよい。また推理創元文庫の「現代日本推理小説叢書」(1987─2002年)の乱歩シリーズも、雑誌初出時の扉絵や挿し絵の再現掲載があって外せない。その他、注目すべきは、ちくま文庫「江戸川乱歩全短篇」全三巻(1998年)だ。長編の長期連載だと、あらかじめ結末やの犯人やトリックを考えずに見切り発車の行き当たりばったりで書くため辻褄が合わなくてなってよく話が破綻する江戸川乱歩が嫌な人には、「比較的破綻の失敗作が少ない乱歩の短編だけを最初から狙って読む」という工夫の趣旨にかなって大変にお薦めである。