アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

東京スカパラダイスオーケストラ大百科(8)「Mood For Tokyo Ska We Don't Know What Ska Is !」(川上つよし)

「東京スカパラダイスオーケストラ」のベスト盤「Mood・For・Tokyo・Ska・We・Don't・Know・What・Ska・Is !」を日本語訳すると、「スカパラによる、これぞスカ・ムードな音楽の決定版。しかし俺たち、これまで散々スカを演奏してきたんだけど、スカの何たるかをいまだ分かりきれてないんです」といった意味タイトルになるはずだ。このCDは、まずジャケットが良い。スカパラの歴代メンバーがイラストで載っている。また内容もベスト盤なので各メンバー制作の代表曲がほぼ網羅されて入っている。

冷牟田曲の「モンスター・ロック」(ゼロ戦の戦闘機が落下飛行する強イメージ曲)、青木曲の「ホール・イン・ワン」(あのサビのフレーズ思い付くまでが難しいと思う)、ガモウ曲の「四次元山脈」(ウルトラセブンのタイトルに出てきそうなレトロSFな題名がよい)、ナーゴ曲の「バーニング・スケール」(燃え上がるウロコはゴジラのイメージ)、川上曲の「ユー・ドント・ノウ・ホワット・スカ・イズ」(「あら、スカの味をご存知ないのね」、もしくは「お前ら、スカの何たるかを全くわかっちゃいない」)など。その他、秀逸カバーの「ザ・ルック・オブ・ラヴ」(ナーゴ節全開!)や、昔のライヴ音源の「ペドラーズ」(初期ライヴの熱狂が伝わる)もよいし、各メンバー執筆の曲紹介のライナーも面白い。このCDはベスト盤で、有名曲や代表曲が通しで一枚で聴けて便利だと思う。私は今でもよく聴く。

川上つよしさんのことなど。ベース担当。東京スカパラダイスオーケストラは、主にスカのジャンルの音楽をやるバンドだが、結局スカパラがスカの音を出すのにスカの理論に依拠した作曲や編曲やカバー選択眼をかなりの部分、川上つよしに頼っている所が正直あると思う。川上つよしのスカに関する知識やセンスが、いつも心憎い。

例えば北原雅彦はホーンアレンジもやるけれど、あの人はもともとスカの音楽にそこまで造詣深い人ではなくて、学生の時からブラスバンド部に所属していて、ずっとトロンボーンを吹いていた金管楽器に関しては案外にベタな人である。またナーゴは、昔からマイルス・デイヴィス(Miles・Davis )が好きで、ランドセルを背負った小学校時代からトランペッターに憧れていたと聞くし、ガモウもソニー・ロリンズ(Sonny・Rollins)の音に衝撃を受けてサックス修行でアメリカへ行って、お二方ともどちらかといえば「ジャズ寄りな人」である。だから、「スカパラ・メンバーの中ではスカの音楽に精通している川上さんが頼りになる」という感慨だ。以前にサポートでツアーに参加した元「ブランキー・ジェット・シティー」(Blankey・Jet・City)の中村達也によると、川上つよしは相当に「理論派で理屈っぽい」らしいので、そういったスカパラのコンセプト・ワーク的なことをスカに関する知識と理屈を駆使して上手く仕上げる有能な人という感じがする。

ナーゴから言わせると、川上つよしは「何でも極める人」らしい。趣味の渓流釣りやサッカー観戦、本職のスカ音楽の理論やDJにて毎回廻(まわ)すクラブ音源の必殺曲探しのレパートリーまで、川上つよしは「何でも極める」。「なぜ自分は、それを好きなのか」「なぜそれが魅力的であり、自分は心惹(こころひ)かれるのか」理論の言葉で分析し説明する。そうした「理論派で理屈っぽい」がゆえに、知識と理論を駆使して整序癖、分析癖を遺憾なく発揮する。こういうのは「その人ならではの生まれながらの資質」とでもいうべきもので、そこが川上つよしは素晴らしい。ライヴ途中に突如、開講される「川上つよしのスカ講座」の私はファンだ。

以前に横浜アリーナで「オリジナル・ラヴ」(Original・Love)の田島貴男をゲストに呼んでライヴをやった時、「めくれたオレンジ」の他に「スペシャルズ」(Specials)の「ナイトクラブ」をカバーでやっていて、それを後日DVDで見て「たぶんスペシャルズのカバーをやったのは、川上さんのアイデアだろうな。スペシャルズの楽曲の中でも『ナイトクラブ』を選択するなんて、田島さんの雰囲気にバッチリ合っててセンスいいな」と私は、瞬間的に思った。それ以外にもスカパラはヨーロッパに行った時、現地でスペシャルズのカバーを数多くやっているっぽい。ヨーロッパツアー密着ドキュメントの中の短いワンシーンで、客との掛け合い場面から「トゥ・ホット」を演奏しているのが一瞬、聴こえたりする。

近年のスカパラで、特に冷牟田脱退後のスカパラにて、スカを主体としたアルバム楽曲制作やライヴでやるカバー曲選択眼はスカの知識に造詣が深い川上にさらに大きくかかっていると思われ、川上つよしに対する期待が膨(ふく)らむ。冷牟田脱退後に出した初のアルバム「Paradise・Blue」は、初期スカパラを思わせる原点回帰な良アルバムで、川上曲のアルバム表題曲を含め、「いかにも川上さん主導のアルバム」という感じが私はする。

川上つよしは案外に無愛想にサングラスをかけて無表情で棒立ちでたたずんでいたり、「音楽なんてただのJOY(楽しみ)、スカパラのバンドは自分にとっては単なる母体」など非常に突き放した時に醒(さ)めた発言や行動に出るけど、あれは無駄に熱いメッセージをやたら発するのが好きな谷中敦と(笑)、人情派で情に熱く懐(ふところ)が深い沖祐市との同級生トリオで同席することが多いので、川上つよしはバンド内での対人バランスを考えわざと、そうしたクールな醒めた面を狙って時にインタビューを受けたり、集合写真の被写体に臨んでいるフシが私には昔から一貫して感じられた。この人は「情より理」の大変に頭のよい人だと思う。

川上曲で大・大・大好きなのは「The・Last ・Bandolero」で、これはスカパラ楽曲の中でも文句なく歴代で1位か2位に位置する良曲だ。スカパラによる、スカパラ楽曲の中でまぎれもないスカの名曲であり、何よりもあのウネり感がスゴい。本当に洗練されていて力強いオーセンティック(正統派)なスカだ。あとは「ユー・ドント・ノウ・ホワット・スカ・イズ」も洗練された曲センスがよいし、「コール・フロム・リオ」も南国のさわやかな風を存分に感じられるスカで、スカパラ楽曲の中で私は相当に気に入っている。