アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

再読 横溝正史(41)「七つの仮面」

横溝正史「七つの仮面」(1956年)は、同じく横溝の「三つ首塔」(1955年)と読み味が似ている。いずれも女性の扇情的な性癖に絡(から)めたメロドラマ調の作りだ。それに殺人事件の探偵推理の要素が加わる。両作品ともに私立探偵の金田一耕助が登場する。

本作は主人公女性の一人告白語り(モノローグ)の手記にて、「聖女」とされた良家令嬢が性的に女性として果てしなく堕(お)ちていく話である。女性同士の同性愛あり、男女の変態嗜好あり、読んで誠に派手で通俗な風俗小説ではある。それに探偵推理として二つの殺人事件があり、そのうちひとつは密室殺人である。探偵の金田一耕助は本当に最後近くで少し出てくるのみだ。

タイトルの「七つの仮面」とは、この主人公の「聖女」と交際していた佝僂病(くるびょう)ぽい老彫刻家が彼女の裏の本性を見抜き、「聖女の首」と称する胸像作品、「聖女の首」「接吻(せっぷん)する聖女」「抱擁する聖女」「法悦する聖女」「悪企(わるだく)みする聖女」「血ぬられた聖女」の六つの仮面彫刻を極秘に作成する。そうして最後に「七つの仮面」たる「縊(くび)れたる聖女」の胸像を前に、彼女はいくつかの殺人を犯した末、縊死にて自死するというプロットである。本作「七つの仮面」は、横溝が以前に手掛けた「聖女の首」(1947年)のリメイクであった。

横溝正史「七つの仮面」を読むと、夢野久作「火星の女」(1936年)や昔の東映映画、多岐川裕美主演「聖獣学園」(1974年)を私はいつも思い出してしまう(笑)。

「あたしが聖女ですって?今は娼婦になり下がった、それも殺人犯の烙印を押されたこのあたしが?でも、あたしが聖女と呼ばれるにふさわしい時期もあったのだ。ミッション・スクール時代の気品に満ち、美しく清らかだったあの頃。だが、醜い上級生、山内りん子に迫られて結んだ忌まわしい関係があたしの一生を狂わせた。卒業してからも、りん子はあたしに執拗に付きまとい、やがて、あの恐ろしい事件が起きてしまった。あたしが恋人の伊東慎策を訪ねた直後、彼が五階の自室から転落死したのである」(角川文庫版、表紙カバー裏解説)