アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

読書のたのしみ

大学受験参考書を読む(11)伊藤和夫「英語長文読解教室」

駿台予備学校の伊藤和夫による英語参考書の「教室三部作」といえば、「英文解釈教室」(1977年)と「英文法教室」(1979年)と「英語長文読解教室」(1983年)であるが、三冊目に当たる「英語長文読解教室」は「英文解釈教室」の続編の扱いで、「できること…

大学受験参考書を読む(10)伊藤和夫「英文解釈教室」

駿台予備学校、伊藤和夫「英文解釈教室」(1977年)は、昔からある英語参考書の名著であるが内容が難しい。この点に関し、さすがに著者の伊藤師も「英文解釈教室が難しくて学生に気の毒」と感じたのか、解説と問題ともに易化させた「英文解釈教室」の「基礎…

大学受験参考書を読む(9)佐藤優「いっきに学び直す日本史」(安藤達朗「大学への日本史」復刻・復刊によせて)

佐藤優「いっきに学び直す日本史」上下巻(2016年)は、駿台予備学校の安藤達朗の名著「大学への日本史」(1973年)のバージョン違いであり、その推薦人及び解説に現在人気なビジネス教養書評を執筆の佐藤優を添えた体裁で、安藤師の「大学への日本史」が思…

大学受験参考書を読む(8)安藤達朗「大学入試 日本史論述問題演習」

駿台予備学校の安藤達朗「大学入試・日本史論述問題演習」(1983年)は初版が1983年で、現在は絶版・品切のはずである。読後の感想として結論からいうと、現在の大学受験生には、あまり合わない必要のない大学受験参考書であるといえる。 というのは、本書は…

大学受験参考書を読む(7)安藤達朗「日本史講義 2 時代の特徴と展開」

駿台予備学校の駿台文庫から出ている安藤達朗「日本史講義・時代の特徴と展開」(1994年)は、もともとは全五巻で刊行された駿台レクチャー叢書(そうしょ)「安藤の日本史講義シリーズ」の中の一冊で、日本史の大学受験参考書の名著であるにもかかわらず、…

大学受験参考書を読む(6)安藤達朗「大学への日本史」 大久間慶四郎「大学への世界史の要点」

駿台予備学校の安藤達朗著、研文書院刊「大学への日本史」(1973年)は、丁寧に細かく書かれた非常に良い参考書だ。本書の「あとがき」を読むと、まだ安藤師が30代の頃に書いた本ということで「当時は、このような大著は数人が分担して執筆し、有名な先生の…

大学受験参考書を読む(5)富田一彦「基礎から学ぶビジュアル英文読解 構文把握編」

結局のところ、大学受験の英語のみならず、要するに私の英語読解嗜好として少なくとも一読しただけでは意味のとれない非常に構文が複雑で面倒で難解な、まさに詰め将棋のように熟考を要する難しい英語を日常的になぜか読みたいわけである、下線部英文和訳に…

大学受験参考書を読む(4)富田一彦「富田の英語長文問題 解法のルール144」

現役の大学受験生のような入試で高得点を獲って志望大学に合格するといった実利的な目的以外の所で大学受験参考書を読んでいると、その参考書を介して勉強そのものが分かるや得点・偏差値が伸びるといった大学受験参考書の、そもそもの本来趣旨以外のこと、…

大学受験参考書を読む(3)富田一彦「富田の英文読解100の原則」(その2)

私が代々木ゼミナールの富田一彦を好きなのは、この人は学生が受験勉強を通じて実際に英語が話せて書けて使えるようになることを最初から笑ってしまうほど潔(いさぎよ)く断念しているフシがあるからだ。学生に英語を教える、英語の教師であるにもかかわら…

大学受験参考書を読む(2)富田一彦「富田の英文読解100の原則」(その1)

富田一彦「富田の英文読解100の原則」(1994年)は、氏による論理的な英文精読の方法教授の大学受験参考書であり、「英文以外の、トピックの背景にある常識的前知識を活用する」や「前後の文脈で」や「行間を読む」の「何となく」な英文解釈が厳禁の参考書で…

大学受験参考書を読む(1)富田一彦「試験勉強という名の知的冒険」

私はもう、だいぶ前に学校を卒業して、すでに学生ではないのだが、今でも大学受験参考書を読んで面白がったり、時に不満に感じたりすることが多々ある。そういったわけで今回から始まる新シリーズ「大学受験参考書を読む」である。 富田一彦「試験勉強という…

太宰治を読む(8)「兄たち」

太宰治の本名は津島修治である。太宰は⻘森県北津軽郡⾦⽊村の出⾝である。太宰の⽣家は県下有数の⼤地主であった。津島家は「⾦⽊の殿様」と呼ばれていた。⽗は県議会議員も務めた地元の名⼠であり、多額の納税により貴族議員にもなった。津島家は七男四⼥…

太宰治を読む(7)「兄たち」「鉄面皮」

「太宰治全集」にて私には⼀時期、太宰と⻑兄で家⻑たる兄・⽂治とのやりとりがある作品箇所だけ、わざと選んで読み返す楽しみの趣向があった。太宰治の本名は津島修治である。太宰は⻘森県北津軽郡⾦⽊村の出⾝である。太宰の⽣家は県下有数の⼤地主であっ…

太宰治を読む(6)「パンドラの匣」

太宰治は、すぐに薬物中毒になったり何度も自殺未遂を繰り返したりで「生れて、すみません」の陰気な暗い男であり、よって彼の作品も「斜陽」(1947年)や「人間失格」(1948年)のような暗い陰気な小説が多いように一般に思われがちだが、実はそうではない…

太宰治を読む(5)「トカトントン」(中島敦「悟浄出世」)

特集「太宰治を読む」だが、今回は趣向を変えて中島敦「悟浄出世」(1942年)について。そして最後に少しだけ、本当に少しだけ太宰治「トカトントン」(1947年)のことなど。中島敦は、かなりよい作家だと思う。この人は病気で三十代で若くして亡くなったた…

太宰治を読む(4)「畜犬談」

太宰治「畜犬談」(1939年)は基本、滑稽路線でおもしろい。しかし最後は「芸術の目的」をぽろっと白状して話を締める、よい小説だ。主人公(たぶん太宰)は犬嫌いである。先日、通りすがりの犬にガブッと咬まれた友人の災難を紹介した後、次のように「犬へ…

太宰治を読む(3)「眉山」「お伽草紙」

太宰治といえば「人間失格」(1948年)を書いた人で、何度も自殺未遂を繰り返し五度目の心中にていよいよ逝(い)ってしまった、何だかいつも「生れてすみません」などと言っているような陰気で暗い友人もいない孤独な人のように思われがちだが、実はそうで…

太宰治を読む(2)「惜別」

書簡か何かの作品か、どこに書いていたのか思い出せないが、太宰治が「日本には芥川龍之介という短編小説の大変な名手がいるが、その後この分野でいい人が出ていないので、ひとまず自分が頑張ってみたい」という旨のことをいっていた。短い中でエッセンスを…

太宰治を読む(1)「津軽」

太宰治、この男は四回「自殺」未遂をやって、五回目にとうとう逝(い)ってしまう。猪瀬直樹「ピカレスク・太宰治伝」(2000年)を読むと分かるが、太宰治の重ね重ねの「自殺」は決して本気で死にたいと思って「自殺」をやっているわけではない。 太宰の度重…

江戸川乱歩 礼賛(22)「ぺてん師と空気男」

江戸川乱歩の「ぺてん師と空気男」(1959年)は題名が素晴らしい。タイトルだけで言えば、乱歩の作品では「目羅博士の不思議な犯罪」(1931年)と双璧をなす名タイトルであるように思う。 本作は「ぺてん師と空気男」とそれぞれに、あだ名される二人の男の奇…

江戸川乱歩 礼賛(21)「パノラマ島奇談」

江戸川乱歩「パノラマ島奇談」(1927年)のあらすじはこうだ。「売れない物書きの人見廣介は、定職にも就(つ)かない極貧生活の中で、自分の理想郷を作ることを夢想していた。そんなある日、容姿が自分と瓜二つの大富豪・菰田(こもだ)源三郎が病死したと…

江戸川乱歩 礼賛(20)「一寸法師」

江戸川乱歩は、昭和の始めに明智小五郎の長編物「一寸法師」(1927年)を「朝日新聞」に連載して、あまりの出来の悪さに自己嫌悪に陥り「一寸法師」連載終了後に失意の放浪の旅に出て、しばらく休筆で筆を折る。このことを後の乱歩自身の回想文にて言わせる…

江戸川乱歩 礼賛(19)「堀越捜査一課長殿」

私は、江戸川乱歩の作品は乱歩個人の全集や傑作集や他作家とのアンソロジー(「日本の探偵小説名作選」のようなもの)ら様々な書籍にて読んでいるが、自分の中では創元推理文庫より昔から出ている「日本探偵小説全集」での第二巻に当たる「日本探偵小説集2…

江戸川乱歩 礼賛(18)「緑衣の鬼」

江戸川乱歩「緑衣(りょくい)の鬼」(1936年)は、以前に乱歩が絶賛したフィルポッツ「赤毛のレドメイン家」(1922年)の骨格を借り乱歩なりの趣向にて肉付け創作した、いわゆる「翻案小説」だ。そのため、本家のフィルポッツ「赤毛のレドメイン家」を既読…

江戸川乱歩 礼賛(17)「群集の中のロビンソン・クルーソー」

「群集の中のロビンソン・クルーソー」(1935年)は江戸川乱歩の随筆選に必ずといってよいほど収録されている作品で、乱歩の代表的エッセイといってよい。本作タイトルの「群集の中のロビンソン・クルーソー」とは、どういう意味のどういった人物なのか。 「…

江戸川乱歩 礼賛(16)「大暗室」

江戸川乱歩「大暗室」(1939年)は「暗黒星」(1939年)とタイトルが似ており、ほぼ同時期の雑誌連載作である。だからなのか、私はいつも両作を混同してしまう。また乱歩の通俗長編は長期連載にあたり、乱歩自身が結末をあらかじめ考えず場当たり的に自転車…

江戸川乱歩 礼賛(15)「暗黒星」

江戸川乱歩「暗黒星」(1939年)は戦前乱歩の明智探偵シリーズ、通俗長編の最後の方のものだ。話の概要は奇人資産家・伊志田鉄造の一家を襲う血の惨劇の物語であり、神出鬼没で万能な犯人に一家は、ことごとく裏をかかれて伊志田屋敷の洋館にて一人また一人…

江戸川乱歩 礼賛(14)「化人幻戯」

「化人幻戯(けにんげんぎ)」(1955年)は、江戸川乱歩が六十歳の還暦記念パーティー席上にて「還暦を機に若返って新作を書きます」と明かしたもので、江戸川乱歩ひさびさの本格長編である。しかも、初出連載は推理ミステリー雑誌「宝石」ということで往年…

江戸川乱歩 礼賛(13)中井英夫「乱歩変幻」

江戸川乱歩研究や探偵小説評論、乱歩作品に関する書評は昔から多くあるが、なかでも私にとって印象深い乱歩についての文章は、創元推理文庫「日本探偵小説全集2・江戸川乱歩集」(1984年)巻末に書き下し解説として付された中井英夫「乱歩変幻」だ。探偵小…

江戸川乱歩 礼賛(12)「屋根裏の散歩者」

江戸川乱歩の短編と長編を含めた全時代(オールタイム)ベストを選ぶとすれば、おそらく世人の一致するところで初期短編の「屋根裏の散歩者」(1925年)は必ず上位に位置するに違いない。少なくとも私の場合、乱歩のオールタイムベストとして「屋根裏の散歩…