アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

2021-06-05から1日間の記事一覧

再読 横溝正史(26)「蔵の中」

横溝正史「蔵の中」(1935年)は、結核病(けっかくや)みで屋敷の「蔵の中」に引きこもっている美少年が現実と幻の区別がつかなくなる、読んでいて確実に混乱する誠に捉え所がない耽美で幻想的な話だ。同様に美しいが、結核の病(やまい)に冒(おか)され…

再読 横溝正史(25)「悪魔の家」

横溝正史「悪魔の家」(1938年)は戦前の短編であり、探偵の由利麟太郎と助手の三津木俊助が活躍する話である。ついで「警視庁の古狸(ふるだぬき)」の異名をとる等々力警部も出てくる。戦後の横溝の金田一耕助シリーズにて金田一と懇意でコンビを組む等々…

再読 横溝正史(24)「女王蜂」

横溝正史「女王蜂」(1952年)の概要は以下である。「伊豆半島の南方にある月琴島に源頼朝の後裔と称する大道寺家が住んでいた。絶世の美女、大道寺智子が島から義父のいる東京に引きとられる直前、不気味な脅迫状が舞い込んだ。『あの娘のまえには多くの男…

再読 横溝正史(23)「犬神家の一族」

横溝正史「犬神家の一族」(1951年)は、1970年代からの「昭和の横溝ブーム」の画期となった作品であり、横溝正史の全仕事の中でも外せないものだと思う。やはり市川崑による横溝原作の映画化、金田一シリーズ第一弾「犬神家の一族」(1976年)の世評に与え…

再読 横溝正史(22)「八つ墓村」

横溝正史「八つ墓村」(1951年)の概要はこうだ。 「かつて戦国の時代に三千両を携えて村に落ちのびた八人の武者を、村人たちが欲に目が眩(くら)んで惨殺して強奪。以来、この村は『八つ墓村』と呼ばれ、不詳の怪奇が相次ぐ。首謀者の子孫が突然に発狂して…

再読 横溝正史(21)「芙蓉屋敷の秘密」

「芙蓉(ふよう)屋敷の秘密」(1930年)は横溝初期の作品であり、横溝正史の初の本格長編である。事件の推理解決に乗り出すのは素人名探偵・都築欣哉(つづき・きんや)であり、都築の友人で小説家の「私」こと那珂省造(なか・しょうぞう)が、事件の発生…

再読 横溝正史(20)「悪魔の百唇譜」

時折なぜか無性に横溝正史の金田一耕助が読みたくなる時がある。私立探偵の金田一耕助を始め、警視庁の等々力警部や岡山県警の磯川警部、パトロンの久保銀造や風間俊六らがいる馴染みの金田一探偵譚の世界に浸(ひた)りたくなるのだ。例えば「本陣殺人事件…

再読 横溝正史(19)「呪いの塔」

横溝正史「呪いの塔」(1932年)は、戦前に発表された横溝の長編である。杉本一文による傑作カバーイラスト群に彩(いろど)られた角川文庫の横溝全集を連続して読んでいると気づくが、おそらく杉本一文は横溝の作品を一読してから、その内容を踏まえてイラ…

再読 横溝正史(18)「石膏美人」

横溝正史の探偵小説の一般イメージとして金田一耕助シリーズが真っ先に挙げられ、また当の横溝正史も自選ベストの上位に常に金田一シリーズを推(お)すというように、横溝においては読者の横溝ファンが望む読みたいものと、書き手の横溝正史が自信をもって…

再読 横溝正史(17)「真珠郎」

横溝正史「真珠郎」(1937年)は戦前に雑誌「新青年」に連載にて、昔の角川文庫のカバー絵、杉本一文イラストのごとく、湖水にて夜行虫でヌラヌラと透けるように怪しく光る女性的な(!)殺人美少年「真珠郎」にまつわる奇怪な事件を描いたもので、同じく戦前…

再読 横溝正史(16)「悪魔の設計図」

横溝正史「悪魔の設計図」(1938年)は、私立探偵・金田一耕助ではなく名探偵・由利麟太郎と助手・三津木俊助が活躍する話であり、まずタイトルのインパクトがよい。内容は「奇怪な遺言状」をめぐる殺人に関するもので、「悪魔の設計図」における「悪魔」と…

再読 横溝正史(15)「不死蝶」

横溝正史は以前にウィップル「鍾乳洞殺人事件」(1932年)を翻訳し、「自分もウィップルの作品のような鍾乳洞を舞台にした探偵小説を」と構想を練り後に執筆している。横溝の作品の中で鍾乳洞の設定を効果的に使ったものといえば世間で有名なところで、やは…

再読 横溝正史(14)「白と黒」

横溝正史による金田一耕助もの、新聞連載の長編「白と黒」(1961年)は約500ページの長編で枚数が多く話が長いが、苦もなくサラりと気軽に読める。いつもの角川文庫版、杉本一文による傑作カバー絵も特に秀逸で、私はこの「白と黒」の陰影コントラストな少女…

再読 横溝正史(13)「百日紅の下にて」「獄門島」

横溝正史「獄門島」(1948年)は日本における探偵小説の傑作であり、本作に関し私ごときが新たに何かを指摘したり、作品解説をしたり、注文をつけたり苦言を呈したり、今更ながら言うことなどない。横溝の「獄門島」を既読で、すでに内容を知っている人は「…

再読 横溝正史(12)「女が見ていた」

横溝正史「女が見ていた」(1949年)は一読、いつもの横溝とは違う雰囲気の作品になっている。敗戦後の都会を舞台にしたミステリーで、本作は「時事新報」の昭和二十四年五月五日号から十月十七日号まで連載された新聞小説である。いつもの横溝らしからぬ作…

再読 横溝正史(11)「蜃気楼島の情熱」

横溝正史の中編「蜃気楼島の情熱」(1954年)は戦後に発表の作品で、本作に「獄門島」(1948年)と「悪霊島」(1980年)を合わせ、その筋の正統な横溝ファンから「島ミステリー三部作」と称されているらしい。「蜃気楼島の情熱」は何よりもタイトルが素晴ら…

再読 横溝正史(10)「びっくり箱殺人事件」

横溝正史「びっくり箱殺人事件」(1948年)の概要は以下だ。「箱の蓋(ふた)をはね上げ、バネ仕掛けの人形のように男が飛び出した。だが瞬間、まえのめりに倒れこむと激しく痙攣(けいれん)し始めた。男の胸には、箱の中に強いスプリングでとめられた鋭い…

再読 横溝正史(9)「蝶々殺人事件」

探偵小説にて私立探偵の金田一耕助が登場する、日本の地方の閉鎖的共同体の因習や祖先一族の因縁に絡(から)めたドロドロな本格長編ではなくて、都会が舞台で都市生活の個人主義的なスッキリ洗練された大人な本格推理が読みたい人には、「横溝正史などに執…

再読 横溝正史(8)「悪魔が来りて笛を吹く」

横溝正史「悪魔が来りて笛を吹く」(1953年)、昔の角川文庫の表紙カバー裏解説には以下のようにある。 「毒殺事件の容疑者である椿(つばき)元子爵が失踪して以来、椿家に次々と惨劇が起こる。自殺他殺を交え7人の命が奪われた。子爵が娘に残した遺書『こ…

再読 横溝正史(7)「夜歩く」

横溝正史は生涯に少なくとも3度、自作品の自選ベスト企画に回答を寄せている。どの年度でも自薦の上位ベスト3に横溝が好んで常連で挙げているのは「本陣殺人事件」(1946年)と「獄門島」(1948年)と「悪魔の手毬唄」(1959年)である。そして。これら定…

再読 横溝正史(6)「鬼火」

横溝正史の中編「鬼火」(1935年)に関し、本作タイトルとなっている「鬼火」とは、「人間や動物の死体から浮遊する霊魂の火の玉、蒼白い炎、亡くなった後にこの世に未練を残し、いたたまれない『怨』の思いが残って、その怨念が炎の火の玉となり可視化して…

再読 横溝正史(5)「黒猫亭事件」

横溝正史「黒猫亭事件」(1947年)は、終戦後の「獄門島」(1948年)や「本陣殺人事件」(1946年)に続く作品であり、戦争が終わり「さあ、これからだ。思いっきり思う存分に本格を書いてやろう」と横溝が新しい探偵小説の創作に情熱を燃やし書く作品が傑作…

再読 横溝正史(4)「本陣殺人事件」

「本陣殺人事件」(1946年)は、横溝正史が創出した私立探偵・金田一耕助が初登場の作品だ。金田一の出自(東北の生まれ)や経歴(アメリカ滞在、麻薬中毒、探偵になったきっかけなど)、はたまた金田一の容姿や服装の説明記述が初登場なため他作品と比べ非…

再読 横溝正史(3)「迷路荘の惨劇」

1970年代後半から始まる横溝小説の映像化を受けての社会の「横溝正史ブーム」の中、過去作品の発掘再版だけでなく、一度は筆を折ったはずの横溝自身も意欲的に創作を再開する。すなわち、昭和49年に発表の「仮面舞踏会」(1974年)にて横溝正史は完全復活を…

再読 横溝正史(2)「塙侯爵一家」

横溝正史「塙侯爵一家(ばん・こうしゃくいっか)」(1932年)は、横溝の作品の中では比較的初期にあたり、あまり有名な知られた作品ではない。しかし私は、なぜか昔からこの「塙侯爵一家」が深く印象に残って好きだ。 内容は替え玉ですり替わりの悪徳陰謀小…

再読 横溝正史(1)「横溝正史読本」

思えば「虚無への供物」(1964年)の中井英夫が江戸川乱歩が好きで、その乱歩好きが高じて、まさに「虚無への供物」という「乱歩愛」一筋の乱歩に捧げた長編密室物を本気を出して書いて、しかし、あまりにも本気を出しすぎて(笑)、この現実の世を徹底的に相…