アメジローのつれづれ(集成)

アメリカン・ショートヘアのアメジローです。

江戸川乱歩 礼賛(16)「大暗室」

江戸川乱歩「大暗室」(1939年)は「暗黒星」(1939年)とタイトルが似ており、ほぼ同時期の雑誌連載作である。だからなのか、私はいつも両作を混同してしまう。また乱歩の通俗長編は長期連載にあたり、乱歩自身が結末をあらかじめ考えず場当たり的に自転車…

江戸川乱歩 礼賛(15)「暗黒星」

江戸川乱歩「暗黒星」(1939年)は戦前乱歩の明智探偵シリーズ、通俗長編の最後の方のものだ。話の概要は奇人資産家・伊志田鉄造の一家を襲う血の惨劇の物語であり、神出鬼没で万能な犯人に一家は、ことごとく裏をかかれて伊志田屋敷の洋館にて一人また一人…

江戸川乱歩 礼賛(14)「化人幻戯」

「化人幻戯(けにんげんぎ)」(1955年)は、江戸川乱歩が六十歳の還暦記念パーティー席上にて「還暦を機に若返って新作を書きます」と明かしたもので、江戸川乱歩ひさびさの本格長編である。しかも、初出連載は推理ミステリー雑誌「宝石」ということで往年…

江戸川乱歩 礼賛(13)中井英夫「乱歩変幻」

江戸川乱歩研究や探偵小説評論、乱歩作品に関する書評は昔から多くあるが、なかでも私にとって印象深い乱歩についての文章は、創元推理文庫「日本探偵小説全集2・江戸川乱歩集」(1984年)巻末に書き下し解説として付された中井英夫「乱歩変幻」だ。探偵小…

江戸川乱歩 礼賛(12)「屋根裏の散歩者」

江戸川乱歩の短編と長編を含めた全時代(オールタイム)ベストを選ぶとすれば、おそらく世人の一致するところで初期短編の「屋根裏の散歩者」(1925年)は必ず上位に位置するに違いない。少なくとも私の場合、乱歩のオールタイムベストとして「屋根裏の散歩…

江戸川乱歩 礼賛(11)「D坂の殺人事件」

江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」(1925年)が昔から好きだ。本作は本格の短編であり、「日本の開放的な家屋では密室事件は成立しない」という従来の声に対抗して乱歩が書いた日本家屋を舞台にした密室殺人である。密室の他にも格子越しに二様に見える浴衣柄の…

江戸川乱歩 礼賛(10)「何者」

江戸川乱歩の全短編の中で私は「何者」(1929年)という本格の作品が特に好きだ。「何者」は、乱歩の全作品の中で個人的ベスト3以内に入るほどの出来栄えであり、本当に素晴らしい隙(すき)のない清々(すがすが)しい本格推理だと思う。(以下、犯人の正…

江戸川乱歩 礼賛(9)光文社文庫「江戸川乱歩全集」

江戸川乱歩に関し、皆さんは小学生の頃にポプラ社の「少年探偵団」シリーズでジュヴナイル(少年少女向け読み物)の乱歩に親しみ、それからしばらく空白があり、大人になって再び江戸川乱歩を読み返して再評価する「乱歩返り」(?)のパターンが、おそらく多…

江戸川乱歩 礼賛(8)「湖畔亭事件」

江戸川乱歩「湖畔亭事件」(1926年)の概要は、およそ次の通りだ。「湖畔の宿で無聊(ぶりょう)にかこつ私は、浴室に覗き眼鏡を仕掛け陰鬱(いんうつ)な楽しみに耽っていた。或る日レンズ越しに目撃したのは、ギラリと光る短刀、甲に黒筋のある手、背中か…

江戸川乱歩 礼賛(7)「盲獣」

江戸川乱歩「盲獣」(1932年)に関して、私は昔から「非常にもったいない、惜(お)しい、残念だ」という思いが拭(ぬぐ)えない。乱歩の「盲獣」は「エロ・グロ・ナンセンス」の猟奇のその手の作品として、かなりの着想アイデアと筋書きで申し分がない。た…

江戸川乱歩 礼賛(6)「陰獣」

江戸川乱歩は、昭和の始めに明智小五郎の長編物「一寸法師」(1927年)を「朝日新聞」に連載して、あまりの出来の悪さに自己嫌悪に陥り「一寸法師」連載終了後に失意の放浪の旅に出て、しばらく休筆で筆を折る。江戸川乱歩という人は探偵小説家として案外い…

江戸川乱歩 礼賛(5)「目羅博士の不思議な犯罪」

江戸川乱歩の「目羅博士の不思議な犯罪」(1931年)は題名が素晴らしい。タイトルだけで言えば、乱歩の作品では「ぺてん師と空気男」(1959年)と双璧をなす名タイトルであるように思う。乱歩作品の中で、相当に秀逸と思える印象深い名タイトル「目羅博士の…

江戸川乱歩 礼賛(4)「蜘蛛男」

人間は「無知であるがゆえに幸福」ということがある。江戸川乱歩の「蜘蛛男」(1930年)を私は10代の時に初めて読んだが、初読時その結末に驚いた。今でも探偵小説全般に無知だが、当時はさらに探偵小説のことをほとんど知らなかったので「まさか!こんな展…

江戸川乱歩 礼賛(3)「心理試験」

江戸川乱歩「心理試験」(1925年)は初期の短編であり、私が好きな乱歩作品だ。主人公が「心理試験」の裏をかこうとして、逆に自身の無意識の心理によって墓穴を掘る話である。読み所は、悪知恵で工夫を凝らす主人公が自ら無意識のうちに墓穴を掘り最終的に…

江戸川乱歩 礼賛(2)「人間椅子」

江戸川乱歩の小説は探偵推理が土台で、それに大正デモクラシーの「モダニズム・テイスト」か、昭和初期の「エロ・グロ・ナンセンス」の表層の味が加わるように思う。私は後者の猟奇で恍惚な「エロ・グロ・ナンセンス」よりも、前者の明るくて馬鹿っぽい「モ…

江戸川乱歩 礼賛(1)「孤島の鬼」

江戸川乱歩の素晴らしさを誉(ほ)め称(たた)える、時には乱歩の駄目な所にも半畳を入れて無理に誉める、今回から始まる新シリーズ「江戸川乱歩・礼賛(らいさん)」である。 「乱歩の前に乱歩なし、乱歩の後に乱歩なし」。江戸川乱歩である。日本の探偵小…

再読 横溝正史(56)横溝の金田一耕助ファンあるある

(1)法事で帰省の際、「犬神家の一族」のスケキヨの白マスクをかぶって帰って、親戚から「もう帰ってくるな!」と叱られる。 (2)夜中に「八つ墓村」の頭に懐中電灯を指し模造刀を持ったコスプレをして、ご近所さん宅に醤油を借りに行って気味悪がられる。 (3)…

再読 横溝正史(55)「空蝉処女」

横溝正史「空蝉処女(うつせみおとめ)」(1946年)は、もともと1946年の敗戦直後に横溝が完成させ関係者に送付し後は掲載を待つばかりの短編となっていたが、なぜか雑誌掲載されず未発表のまま長い間放置されていたものを、原稿の保管者から提供されて横溝…

再読 横溝正史(54)「首」

多作の量産作家の作品を何作も連続して読んでいると、状況設定や人物類型やラストの結末の付け方まで、いつの間にか似通り重複していて正直、ツライ時がある。以前に私は松本清張の社会派推理をよく読んでいたけれど、どうしても事件背景や犯行動機や殺人ト…

再読 横溝正史(53)「金田一耕助の冒険」

横溝正史「金田一耕助の冒険」(1976年)は、私立探偵の金田一耕助と警視庁の等々力警部のコンビが活躍する探偵譚である。本作は全11編の短編からなり、一つの短編の長さはどれも40ページほど、タイトルは「××の中の女」で全て統一されている。本作は「女シ…

再読 横溝正史(52)「ペルシャ猫を抱く女」

昔の角川書店は「横溝正史全集」の完全版を期して、横溝が過去に執筆した作品は、ほぼ漏(も)れなく文庫にして出していた。そこで横溝の短編群を所収した短編集も数冊、編(あ)んでいた。横溝のデビュー作を含む大正期の横溝短編集「恐ろしき四月馬鹿」(1…

再読 横溝正史(51)「刺青された男」

昔の角川書店は「横溝正史全集」の完全版を期して、横溝が過去に執筆した作品は、ほぼ漏(も)れなく文庫にして出していた。そこで横溝の短編群を所収した短編集も数冊、編(あ)んでいた。横溝のデビュー作を含む大正期の横溝短編集「恐ろしき四月馬鹿」(1…

再読 横溝正史(50)「山名耕作の不思議な生活」

昔の角川書店は「横溝正史全集」の完全版を期して、横溝が過去に執筆した作品は傍流なマイナー作、あからさまな破綻作・失敗作、他人名義で発表した代筆など、どんなものでも漏(も)れなく片っ端から文庫にして出していたので、横溝のデビュー作らその周辺…

再読 横溝正史(49)「恐ろしき四月馬鹿」

昔の角川書店は「横溝正史全集」の完全版を期して、横溝が過去に執筆した作品は傍流なマイナー作、あからさまな破綻作・失敗作、他人名義で発表した代筆など、どんなものでも漏(も)れなく片っ端から文庫にして出していたので、横溝のデビュー作らその周辺…

再読 横溝正史(48)「鴉(からす)」

横溝正史の探偵小説を続けて読んでいると、「この時期の横溝さんは、こういうプロットやトリックが好きでハマって、かなり入れ込んで自作に連投しているな」と分かってしまうことがある。「鴉(からす)」(1951年)を執筆時の横溝正史は、「ある人物が失踪…

再読 横溝正史(47)「壺中美人」

昔の角川文庫の横溝作品の表紙カバー絵は、もれなく杉本一文が描いていた。杉本は毎回カバー絵作成の際に事前に横溝の本編小説を読んで、それからイラストを描いていたに違いない。だから杉本一文の歴代イラストカバーをよくよく見ていると、明らかに本編の…

再読 横溝正史(46)「霧の山荘」

横溝正史「霧の山荘」(1958年)のおおよその話の筋はこうだ。あらかじめ補足しておくと、「K高原のPホテル」は「軽井沢高原のプリンスホテル」の匿名表記といわれている。「昭和33年9月、K高原のPホテルに滞在していた金田一耕助を江馬容子という女が訪ねて…

再読 横溝正史(45)「女怪」

戦後に私立探偵の金田一耕助を創作し「本陣殺人事件」(1946年)にて初登場させた横溝正史は、最初から金田一の活躍を時系列で厳密に構成するシリーズ化の金田一探偵の物語世界構築を案外、丁寧に力を入れてやっている。例えば「黒猫亭事件」(1947年)は「…

再読 横溝正史(44)「幽霊座」

以前に横溝正史の探偵小説を連日、連続してほぼ全作読んでいたとき、例えば「本陣殺人事件」(1946年)や「獄門島」(1948年)ら、有名どころの金田一耕助探偵譚を読み切ってしまった後に「残りの横溝マイナー作に読むべきものは、ほとんど残っていないので…

再読 横溝正史(43)「トランプ台上の首」

横溝正史「トランプ台上の首」(1959年)の話の、あらましはこうだ。「舟で隅田川沿いに水上惣菜屋を営んでいる宇野宇之助が、アパート聚楽荘(じゅらくそう)の1階に住むストリッパー、牧野アケミの生首を彼女の部屋で発見した。残されていたのは首だけで…